どんな君でも愛してる
「あれは、私がメールしたものではありません!」

 総帥に対していつも以上に丁寧な口調なため、瑠璃はこのおじいさんが偉い人なんだとすぐに分かった。

「ひどいっ社長!!私の手を引いてくれたのに……。」

「ちゃんと言ったよな?それがなんで婚約になるんだ?」

「!!でもっ!!」

 三流芝居のように、未だに"でもっ""ひどい"を連発するめぐみに白い目が向けられる。瑠璃は、その光景を映画を眺めるように見ており、胸が締め付けられる思いをした。

 めぐみとデートしていたのは事実で、週末に会えなかった自分が、身体だけの関係だったと思い知らされた。

「社長あんな風に、みんなの前で連れ去っていながら、今さらひどいですよ?本当に。」

 今まで黙っていた浩一が、めぐみの援護を始める。

「煩い!お前は黙れ。」

 そんなやり取りが三人の間で繰り広げられ、奏子も呆れ返っていると、八木が突然、話に割り込んだ。

「この際、東雲社長の婚約の話はどうでもいいです。……今日の本題に入ります。」

 皆が息を飲むのが分かる。

 だが瑠璃ひとり意味が分からずにいた。

 何故自分がここに呼ばれたかも分かっていないのに、先程から繰り広げられる話も分からないのに、何故、全員息を飲むのだろうと、そんなことを考えていた。

 だから、自分の名前を呼ばれているのに中々、気が付かなかった。
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