誰かのための物語
「ディフェンダーとして攻撃に参加する方法?」


相良は、リフティングをしながら答える。


まるでボールがその身体に吸い寄せられているようだ。

コントロールがうまく、ボールがまったく落ちる気配がない。


「そう、それを教えてほしいんだ」


守りだけではなく、攻撃においてもチームの役に立ちたい。

それが僕の願いだ。

今の僕は、攻撃の歯車にはまることができていない。

相良は、少し考えてから口を開く。


そして一際高くボールを蹴り上げると、音も立てずにボールを手の中にスッと収めた。


「よし、力になるよ。

でも、答えは日比野の中にしかないと思うぞ。
日比野がボールを持つのって、どういう場面だろう。
まずはそこからだ。イメージするんだ。
そして自分はそこでどういう動きをするか考えるんだ」

「イメージ……」

「試合に出てない時間、特に相手をよく観察するといいよ。

そこで自分がプレーしている姿を想像するんだ。

そして、自分だったらどういう動きをするかなって考える。

イメージトレーニングってやつだな」


彼はそう言いながらドリブルで相手をかわす動作をした。


「なるほど……やってみる。

でも、相良っていつも試合に出てるよね。
どうしてそんなことがわかるの?」


「……あるよ。中学時代にね。
ずっと補欠で、悔しかった」


そうだったのか。

今の相良からは、そんな姿は想像できなかった。


「そしたらいつの間にか、そういう目で試合を見るようになってたんだ。

少ない試合のチャンスが巡ってきてピッチに立ったとき、それが活かされてるのがわかったよ。


あ、なんか見たことあるっていう感覚になるときが必ずあるんだ。

そのとき、迷わず自分がイメージしてたプレーをする。

そうすると、びっくりするほどうまくいったよ」


そう言うと彼は笑って、「まあ騙されたと思ってやってみな」と言った。

相良が、今の僕に必要なことを、自分の経験から教えてくれた。


やらない理由は、ない。
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