誰かのための物語
夢でも現実でも、私はふたりで絵本を作るということをしていたけれど、現実の夢とは大きく違うところがある。


それは、物語を描く人と絵を描く人が公認の間柄ではないということ。


私も、夢の中のように、この物語の話を一緒にしたい。気持ちを共有したい。


その思いを止められず、私は勇気を出して彼にもう一度話しかけた。


公園でゆびきりをした夢を見た、翌日のことだ。



「日比野くんの絵、すごく素敵だね」


言っていることは前と大して変わってないけれど、状況が違う。


昼休みの図書室。

私は、彼が絵を描いているそのときを狙って、彼に話しかけたのだ。

彼は、私が書いた物語の隣のページに、前のめりになって描いていた。

よほど集中していたのだろう。

声をかけるまで気が付かなかった彼は、前傾姿勢のまま首だけ上げ、ポカンと口を開いていた。


「あ、ありがとう……」

そして、数秒硬直したのち、小さな声でそう言った。その反応も、前と変わらない。


でも、今日は逃げたりはしなかった。


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