恋人は魔王様
車が、私の家の前で止まる。

キョウが、上着とネクタイを直す。
別に最初から乱れてはないのだけれど。

そして、私を見て微笑んだ。

「ユリア、少しだけ待っていて。
ママにきちんと挨拶してくるから、ね?」

どきりとして、言葉を失う私の頬に軽いキスをして車から降りてしまった。



「ユリア様」

運転席のジュノが声を掛ける。

「ああ、ジュノ。
ありがとう……桧垣兄弟を救ってくれて」

「どういたしまして。
あの時、最後まで説明させてくれたらよかったのに」

ジュノは少しだけ、子供のように頬を膨らませた。

「そうね、ごめんなさい」

確かに、感情が高ぶってしまって、もう何も受け入れられなかった私は軽率だったと反省する。

「魔王様はいつだって、ユリア様のことを考えていらっしゃるんですよ。
だから、あなたの前に姿を現す前に私に聞かせるんです。
何が一番の叶えたいことか、と」

「で、私は恋人が欲しいといって、リリーは売春宿に売られるのを止めて欲しいと言った」

「ええ、そういうことです」

にこり、と、ジュノが人好きのする笑顔を浮かべた。

「戦争、大丈夫なの?」

「もちろん、なんとか食い止めましたよ。もう少し裏から丁寧に手を回したほうがよいと思うのですが、何せ魔王様が焦ってらして。
あの方らしからぬ……とは思うのですが。
ユリア様のためですから、仕方がないでしょうね」

もう、長い間その光景を見ているのだろう。
ジュノは諦めたように肩を竦める。
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