恋人は魔王様
ああ、正直に言おう。
残念なことに、一言も聞き取れなかったのだ。


「キョルアージュ・サバディオスフィ……?」

なんですって?

『魔王様』は形の良い眉根を寄せて眉間に皺を作る。

「その名前を軽々しく口にしては駄目だと言いたい所だが、

 はぁ。

 口にしても差支えないくらい、全然違うな」

「ご、ゴメンナサイ」

さすがに人の名前を言い間違えるのことが失礼だということくらいは心得ている私は頭を下げた。


ああ、このときもう私はどうかしてたんだ。
だって、彼が囁いた言葉が偽名だろうとか、冗談だろうとか、全然思わなかったんだもん。


最初は、彼はフツーに日本人で「田中太郎です」なんて名乗ってくれることを期待していたはずなのに。

……笑麗奈みたいにハーフだったりするのだろうか?
と、とっさに思ったせいかもしれない。

私が名前を聞き取れないばっかりに哀しいため息をつかせて悪かったなー、なんて感じていたのだ。


ふわり、と、優しく頭をなでられた。

「いいよ、ユリアには難しかったんだね。
 キョウ、って呼べる?」

「キョウ?」

それなら言えますとも。
自信を持って顔をあげた私に、

「いい子だ、ユリア」

と、何故か保護者目線で私を褒めた上に、再び、私の唇に触れるだけのキスをした。




………ああ、流されてるっ!私っ
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