恋人は魔王様
「ななな、何?今の」

濡れた唇を手の甲でぬぐいながら、私は目を丸くする。
一応、すぐにはキョウの指が届かないところまで、移動して。

全体的に打合せのすんだ話で、これが全て狂言だといわれた方がまだマシだ。

そろそろ出てきてくれてもいいんじゃないかなー、スタッフさん♪

「呪い(まじない)」

つまらなそうに言い捨てると、キョウは私に近づいてくる。

黒曜石の瞳が鮮やかに甘く煌いて、私を閉じ込めようとする。

「えーっと、駄目駄目。
 逢ったその日は触れるキスまでって決まってるの、ね?」

「大丈夫、優しくするから」

いやーっ
何の話ー?!

狼狽した私はさらに一歩下がる。
……が、そうはいってもここは玄関。無限の広さがあるわけじゃない。
背中に壁が当たってしまった。

ひんやりとした、木の感触。
目の前には、またたびを目の前にした猫のような迫力で迫ってくるキョウ。

「駄目っ
 お願い、待ってキョウっ」

とん、と、私の隣にキョウが手をつき、魅惑的な眼差しで上から覗き込む。

「何度目なら、いい?」

「えっと。
 そうね、こういうのは回数じゃなくて。

 心が通い合ったら」

「じゃあ問題ない。十分、通い合ってる」

余裕たっぷりの笑顔を浮かべるキョウ。
黒い髪がさらりと揺れる。

「でもっ」

「我慢できなくなって、俺が他の女を抱いても怒らない?」

……え?

私の思考回路は面白いくらいすっぱりとフリーズしてしまった。


ええ?!

私、怒るのかしら?その場合っ



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