恋人は魔王様
何も見えない漆黒の闇。
自分の指先すら見えない。

重たい空気が私をじわじわと締め付けているようで、息が詰まる。
どこから、何がやってくるのかも分からない。
静か過ぎて、耳鳴りすら覚えた。

一人っきりで、場所も分からぬところに置き去りにされ、どれほどの時間が経ったのか。

一歩動けば奈落の底かもしれない、という不安で、私は身じろぎすら出来ず立ち尽くしていた。

真綿で首を絞められたら、こんな風に徐々に弱っていくのかもしれない。

どうしよう。
どうしよう、どうしよう。

呼吸すらもままならなくなって、倒れそうになるが、倒れたらそこは奈落の底に繋がっているのかもしれないと思うと、意識を失うことまでも憚られた。

背中を伝う、冷たい汗が私に現実を突きつける。

……どうしよう。

どうしよう、という言葉だけがまるでウザいほど流行っているギャグみたいにしつこく私の頭を駆け巡っていく。

そんなギャグ、流行るわけもないのに。



「ユリア」

どこからか見当もつかない。
闇の向こうのどこか、から。

この状況を楽しんでいるかのように、私を呼ぶ声が聞こえた。


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