雨宿りの法則


バイトしているということは、学生さんかな。それともフリーター?
なんとなく真面目そうな雰囲気はあるけれど、若いくせに妙に落ち着いているというか、何事にも動じなさそうな話し方をする人だ。

傘をなるべく高く掲げて、雨が作業の邪魔にならないようにつとめる。身長差があるので、知らず知らずに背伸びをしていた。
そうしながらも、黙々とエンジンルームを点検している彼の背中を眺める。


「車には詳しいの?」


あまりにだんまりなのも悪いかと思い、当たり障りのない質問をしてみる。すると、彼は「まあ、それなりに」という実に曖昧な返答をした。
作業中に邪魔な質問はするべきじゃなかった、とその時やっと気づいて口を閉じる。

ちょっと申し訳ない思いを抱いていると、作業をしながら彼がボソボソとしゃべり出した。


「車には小さい頃から興味があって。今は自動車整備士の専門学校に通ってます。なので、この手の故障は俺の専門内です」

「そうだったの」


まさかのプロ志望。整備士の卵というやつか。それなら信頼できるし大助かりだ。


「たぶんこれかな。ベルトがたるんでるっぽいです」

「ベルト?」

「ファンベルトっていって、簡単に言うとエアコンとかの送風をする役目のベルトです。目視でたるんでるの分かります?」


体を起こした彼が懐中電灯で私にも見えるように手元を照らしてくれた。
しかしながら、残念なことに私にはそのベルトのどこがたるんでいるのかは分からなかった。なんとなく黒いゴム製のベルトがあることだけは見て取れたくらいだ。

よくまぁ、こんな暗い中で懐中電灯の明かりだけで分かるなぁと感心してしまった。


今ひとつな表情を浮かべている私の心中を察したらしい彼は、フッと微笑んでエンジンルームを閉じた。


「その顔は分かってないですね。でもいいです、今すぐどうこうなるものではなかったので。中古車ですか?新車だとこういうたるみは普通は無いので」

「うん、中古車。半年前に買ったばかりで」

「やっぱり。ベルト自体が古くなってる可能性が高いので、交換した方がいいかもしれないですね。次の休みにでも行ってください」

「どこに行けば交換してくれるの?」

「ディーラー」

「ベルトがたるんでますって伝えれば分かる?」

「……」


おそらく私の顔はクエスチョンマークだらけだったのだろう、なにしろ本当に車のことには詳しくないので、ちんぷんかんぷんなのだ。どこに行けば直してくれるのかすらも怪しいくらいに。

< 18 / 47 >

この作品をシェア

pagetop