雨宿りの法則


「心を削ってまで、仕事をする必要は無いんですよ」


敬佑くんは私の両肩を抱いたまま、説得するように言い聞かせるように、優しく私に語りかける。


「疲れたら休まないと、響さんが消えてしまう。逃げてもいいんだよ。俺を頼って」


ここで、ようやく自分の中に閉じ込めていた本当の気持ちを知った。

私は、この人が好きだと。

まだ未成年で、学生で。私より7つも年下で、真面目に整備士を目指して勉強している彼。
将来に向かって夢をいっぱい詰め込んで、一生懸命頑張っている人の、足枷になるわけにはいかない。

私という重荷を、一生背負わせるわけにはいかない。
こんなに暗くて重い感情を半分持たせるのは、あまりに酷だ。




━━━━━逃げなきゃ。




「…………ごめん。結婚なんてするつもりもない。自惚れるのはやめて」


自分の肩に置かれた温かい手を、振り払う。
振り払いたくない気持ちを必死におさえて、どうにか理性を保った。それくらい、大人の私になら出来る。


「年上をバカにしてるだけなんでしょ?どうせ一生結婚出来ないだろうって」

「そんなわけ……」


否定しようとする敬佑くんの言葉を遮り、彼の傘からするりと抜け出した。


「私は君とどうこうなるつもりで会ってたわけじゃないから。勘違いしないで。もう……、連絡、してこないで」


そう言い残して、小走りでその場から立ち去った。
雨も風も強くなっていて、全身があっという間に冷えていく。彼がぐるぐる巻いてくれたパーカーを返しそびれたことに気がついたけれど、もう引き返すつもりはなかった。


雨が降っていてよかった。
泣いてたことに気づかれなかっただろうから。

ちゃんと、言えてたかな。
連絡してこないで、って言えてたかな。
聞こえていたかな。

敬佑くん、どんな顔していただろう。
怖くて見れなかった。





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