桜の咲く頃


うつむいた少女の口からは

思いもよらない言葉が出てきた


「私も美咲お姉ちゃんみたいな名前が良かったな…。つぼみで終わりたくなかった、きれいに咲きたかった…」

急に難しいことを言い出した幼い少女



『終わりたくなかった』


『咲きたかった』


これってどういうこと…?


ねぇ、どうして君は

そんな悲しそうなの…?




私には

その悲しそうな横顔に見覚えがあった

大人びた雰囲気を覗かせる"彼女"に…



いつだっただろう

つい最近だったような

そうだ

あの日も、あの桜並木を歩いてた…




「でもね!お姉ちゃんが言ったみたいに、かわいいと思う!だから、ママにありがとうって言いたいな!」

聞こえてきた声は明るく弾む声

さっきの言葉が嘘だったかのように

あどけない、あの可愛い少女の顔に戻っていた





「ここかな?」

私は桜並木の入口に立って問いた


「うん…かなり近い気がする…」

イメージとってことかな?

少女は栞をぎゅっと両手で握りしめながら頷く


私は少女の手を引き

また歩き出した


長く長く続く桜の木

もう散り始めてきていて

道には桃色の花びらが落ちている



「あっ」



隣から短く発せられた声


『どうしたの?』

そう聞こうとした時には

少女は繋いだ手を離して駆け出していた


「つぼみちゃん!?」

私は慌てて少女の名前を呼んで追いかけた



しかしすぐにその足は

一本の桜の木の下で止まった


「…わぁー!立派な桜だね!」

目の前の桜は、公園の桜に劣らないほどの

大きく美しい花を咲かせていた


だけど私には引っかかるものがあった


他の桜より散るのが早い…?


「ここ」

少女はぽつりと呟く


もしかして…

「この桜の木を探してたの?」


「うん。お姉ちゃんありがとう!」

少女は笑みを浮かべて礼を言った


「どういたしまして。でもどうして…」

どうしてこの桜の木を探していたの?


そう聞きたかった


しかしそれは遮られた



少女は

白く眩い光に包まれた



「!!?」



私には何が起きたのか分からなかった

理解出来なかった


その眩しい光に手をかざし

目を細めてみていると

だんだん光が弱まり、消え



少女が現れた

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