桜の咲く頃


光の中から現れた少女…


いや、もう少女ではなかった



そこにいたのは

長い髪を風に揺らし

透き通るような瞳を私に向ける

歳の同じぐらいの女の子だった




「ありがとう、あんなに遊んだの初めてで楽しかったよ」

さっきとはまるで違う静かな口調に声色

私は驚いて声も出なかった



立ち尽くすばかり



それでも彼女は話し続ける

「私はね、ずっと前に死んじゃったの。病気でね?この桜の木には、なんていうか…お世話になった、って言えばいいのかな。」

照れたように笑うその顔は

あの少女の面影があった



彼女は桜の木の幹に手を添えた

「だから、またここに来たかったの。今度は、この桜の話を聞いてあげようと思ってね」


彼女の言ってることはよく分からなかった

耳に入っては言葉がすり抜けていく




彼女は私の方をふり向いた





「ここへ連れてきてくれてありがとう」






こぼれるばかりの眩しい笑顔を

私に向けて告げると同時に

あの光がまた彼女を包む


そして、桜の木へと吸い込まれるように

たくさんの光の粒になり

消えていった




目の前の出来事が嘘のようで

未だに把握出来ない



「何…いまの…」



私はへなへなとそこに座りこんでしまった

腰がぬけるってこういうことかな




今のは夢…?

あぁそうか、これ夢なんだ

凄い夢だったなぁ〜

でも

どこからどこまで…?






その時

手に何か感触があった

私はそれを見て目を見張った


見ると手の中には桜の栞があったのだ

裏には『つぼみ』と、小さく綺麗な字が並んでいた




夢なんかじゃなかった

つぼみちゃんはちゃんといたんだ




私の頬には涙が流れていた

自分が泣いていることに驚いた

だけど

怖いとか、そういうのじゃない


むしろ良かったって思ってる

だってあんなキラキラした笑顔たくさん見れて

嬉しかった


彼女の話からすると

病気で亡くなったみたいだったから

こんなにいっぱい遊んだのも歩いたのも

久しぶりだったんじゃないかな


そういえば

『初めて』っていってたっけ


あの子のためになったのなら

私は嬉しい



「私ってば、言い忘れちゃったな…」

独り言がこぼれる


私は立ち上がり桜の木に近づく

あの子の触ったあたりに触れて

桜を仰ぎ見て言った







「私も楽しかったよ。ありがとう」








これは私が体験した不思議な少女との

不思議な出会いと別れ

< 12 / 21 >

この作品をシェア

pagetop