すきなひと
「そろそろ自転車買えよ……」
「気が向いたらね」
瞬の諦め声に、私はケラケラと笑って見せた。
そんな諦め瞬は嫌いだけど、なんだかんだで私を許してくれる瞬は好きだ。ちょっぴりだけ。
「しゅっぱーつ!」
「大人しくして……」
声をあげて、拳を空に突き上げる。
すると瞬は、もうなんだか疲れ切ったように私をなだめた。私はそれがおかしくて、楽しくて、でも大人しくすることにした。
瞬の絵が注目されるようになったのは、瞬が小学校5年生のときだ。
それより前……多分、幼稚園の時から絵を描いていた。
それも、他の幼稚園児は描けないような絵だ。描けない、というか思いつかない。
思えばその頃から、瞬には瞬の世界が見えていたんだろう。
注目されたきっかけは、学校の図工の時間で書いた絵が、市のコンクールで賞をとったことだった。ある有名作家が偶然、その絵に出会い、随分と気に入ったのだそうだ。
そしてなんと、その人の本の表紙になった。
それから本は大ヒットし、ドラマ化や映画化までされたのだ。
作中に、瞬の絵がたくさん出ていて、世間から注目されるようになった。
以来、彼は『天才』と呼ばれ続けている。