メガネの王子様
*****


お昼休み。



私は陽葵をなんとか誤魔化して校舎裏へと向かう。

正直、午前中の授業は全く頭に入ってこなかった。心ここにあらずって感じ?

校舎裏までの距離が短くなるにつれ、胸のドキドキも速くなっていく。

どうしようっ。ほんとに桐生 櫂だったら。

少し離れたところにある木の陰に誰かいるのが見えた。

私は平静を装い近づいて行く。

「神崎さん、来てくれたんだね。」

サラサラの茶髪にピアス、二重の少し垂れた目に綺麗に整えられた眉。

そこに居たのは、モサッとした髪に冴えない黒縁メガネの男ではなかった。

……誰?この人?

「あ、オレ、3年の清宮(きよみや)って言うんだ。」

なんだ…K.Kって桐生 櫂じゃなかったんだ。

「………。」

「あのさ…神崎さんのこと好きなんだけど、オレと付き合わない?」

少し軽そうな清宮先輩…

本当に私のことを好きなのか、私のどこがいいのか謎だけど、告白されるのは素直に嬉しい。

でも…………

「ごめんなさい。」

手紙をくれたのが清宮先輩であったことに、ガッカリしてる自分に気付いてしまったんだ。

「…そっか。急に呼び出して悪かったね。」

「いえ…。」

清宮先輩は「じゃ…」と眉を下げ元気なく笑いこの場を去っていった。

「はぁぁぁ……。」

大きな溜息が出る。

だって……結構イケメンだったよ、清宮先輩。

なのに、モサ眼鏡の桐生のことが気になってフッちゃうだなんてさ。

私、どうかしちゃってるよね?

トボトボと下を見ながら歩いていたら、ふと人の気配を感じて、人気の無さそうな階段に目をやる。

「ーーーっっ⁉︎」

そこにはモサ眼鏡の桐生が座ったままの体勢で眠っていた。

び、びっくりしたーっ‼︎

どうしてこんな所に桐生がいるのよ⁇

よく見ると桐生の手に本が広げられていて、読んでいる間に眠ってしまったという感じだ。

……読書しに来てたのか。

人気が無くて静かで…ひとりを好む桐生が選びそうな場所だもんね、ココって。

私はそっと近づいて眠っている桐生の顔をじっと観察してみる。

ん?桐生って意外と………

私はあることに気付き、起こさないようにソレを外してみた。

「桐生って実は超イケメンじゃん///」

モサッとした髪と冴えない眼鏡の下には、とても整った綺麗な顔が隠されていた。

「勝手に外さないでもらえる?」

桐生が起きて眼鏡を持っている私の手をパシッと掴む。

「ごっ、ごめんっ///」

「いや、許せないね。どう責任取ってもらおっかな。」

桐生が妖しく微笑みながら私をじっと見ている。

そんなに見られたら恥ずかしいんだけどっ///

それにしても……

本当に綺麗な顔してるな、桐生って。

切れ長の目にキリッとした眉、スッと通った鼻筋に薄い唇。

肌だってツルツルで吹出物ひとつ無い。

「そんなに見つめんなよ、キスしたくなるだろ?」

そ、そんな甘くて魅惑的な低音ボイスで言わないでよっ///

マジ、心臓、ヤバイっつーの///

「な、な、なに言ってるのよっ///
バカじゃないの。手、離してよっ。」

なんなのっ⁈

桐生ってば、口調がいつもと違う。

いつもは敬語でしか話さないくせに。

ううん、口調だけじゃない。キャラまで全然変わっちゃってるじゃんっ///

「嫌だね、離さない。」

桐生は掴んでいる私の手をぐいっと引き寄せてーーーー



「じゃ、契約のしるし。」



そう言って強引に私の唇を奪った。

まさかの出来事に放心状態の私……。

「ぷっ、固まっちゃってる。神崎って面白いね。」

小馬鹿にしたように笑い桐生は、フリーズしている私の手から奪い返した眼鏡をスッとかけた。

そして、いつも通りのモサ眼鏡の桐生に戻る。

「僕は眼鏡を外した姿を知られたくないので、誰にも喋らないで下さいね。
もし、喋るようなことがあれば、僕と神崎さんがキスしたことバラしますよ。」

桐生がニコッと笑って恐ろしいことを言った。

「あんたが勝手にキスしておいてっ///な、なに言ってるのよ!」

しかも、「契約のしるし」ってなによっ。

桐生が眼鏡を外すとイケメンってことをバラさない契約に、なんで私がキスされなきゃいけないのよっ///

その「契約のしるし」が私の弱味になっちゃってるじゃんっ!

桐生は眼鏡を少し下にズラして

「今朝、俺のこと好きなわけない宣言してたのに、キスしたって皆んなが知ったらどんな反応するんだろうね。」

悪魔のような微笑みを残し校舎裏を去っていった。

ーーーーーーーっっ

なんなのっ!あいつ!

このっ、モサ眼鏡の二重人格オトコーーーっっ‼︎


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