メガネの王子様
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遡ること4時間前



私は背中まである緩く巻いた髪を、軽く弾ませながら歩く。

太ももの真ん中くらいの長さに調節したスカートに、適度にたるませたハイソックス。

メンズサイズの大きめのカーディガン。

これが私のこだわり。

神崎 萌香(かんざき ほのか)。

どちらかというと、派手めのグループに属しているけど普通の高校2年生の女の子です。

友達が多い私は、朝から沢山の挨拶を交わしながら教室に入る。

私のクラスは2-Aで席は教室の1番後ろの窓側。

とても気に入ってるんだけど、10月の今はお天気が良い日はまだ暑いくらいなんだ。

暑いからカーテンを閉めようとしたら、廊下側の人に「寒い」って阻止されるんだよね。

廊下側といえばーーー

私と対角線上にいる廊下側の1番前の席のあいつ。

桐生 櫂(きりゅう かい)。

モサッとした髪に冴えない黒縁メガネのあいつ。

2年になって初めて同じクラスになったんだけど……なんか、いつもひとりで本を読んでるんだよね。

別に嫌われてるってわけでもないのに、いつもひとりでいる。

どちらかというと好きでひとりでいるって感じかな?

「なぁに?桐生なんて見ちゃって、恋でもしちゃったー?」

陽葵(ひまり)がニヤニヤしながら、空いている私の前の席に座った。

佐久川 陽葵(さくかわ ひまり)とは高校に入ってからの友達で、去年同じクラスでオリエンテーションの班が一緒になってから意気投合しちゃって、今となっては親友と言っても過言ではないほど仲が良いんだ。

陽葵は私と違ってとても家庭的な女の子。

お料理も上手で、お弁当は毎日自分で作って持ってきてるんだ。

見た目はボブの明るい茶髪で少し派手めだけど、すごく美人さんなんだ。

社会人の彼氏がいて、卒業したら結婚しようって言われてるんだって。

右の薬指に彼氏から貰った指輪を付けてるんだけど、凄く高価そうで彼氏は本気なんだって伝わってくる。

ーーーって今はそんな事どうでもいいの。

「バ、バカじゃないの!そんなわけないじゃんっっ///」

桐生のことなんて別になんとも思ってないのに、なぜか焦ってしまった。

「え、え、なにっ?神崎ってそーなの?」

健(けん)ちゃんまで寄ってきて私の隣の席に座る。

「だから違うって!あんなヤツ好きになるわけないじゃん!」

「だってー。良かったね、健ちゃん。」

「だ、黙れっ///陽葵っ。」

健ちゃんが勢いよく立ち上がり陽葵の口に手を当てた。

口を封じられモゴモゴしながら、陽葵は楽しそうに健ちゃんとじゃれ合っている。

健ちゃんこと町田 健人(まちだ けんと)も去年同じクラスで、陽葵の幼なじみってことで仲良くなった。

健ちゃんはスポーツマンでバスケがメチャクチャうまい。

もちろんバスケ部のエース。

少し明るめの髪でツンツン頭、ハリネズミみたいで可愛いんだ。

長身だしイケメンの部類に入るから、密かに人気があるみたい。

「…コホンッ、まぁ、あんな何考えてるか分からない男は神崎には似合わないよ///」

なぜかワザとらしく咳払いをしてから、少し赤い顔で健ちゃんが言った。

……何考えてるか分からない。

確かに分からないよね?

でも、桐生が優しい人だってことは知ってる。

荷物で両手が塞がっているとき、黙ってそっとドアを開けてあげること。

後ろの席の人が黒板を見にくそうにしていたら、深く椅子に座って前屈みになり座高を低くしてあげていること。

いつも誰にも気付かれないように優しく接してるんだよね。

「萌香、どうしたの?」

陽葵が私の顔を不思議そうに覗き込んできた。

「ううん、何でもないよ。」

私が笑顔で答えると、陽葵は「そっか」と言ってから「健ちゃん、ドンマイ」と健ちゃんの背中をさすっている。

しばらくして、チャイムが鳴り担任の先生が教室へ入ってきたので、それぞれ自席に戻って行った。

私は鞄から教科書を出し、机になおそうとすると、中に何か入っていたのに気付く。

なんだコレ?紙?

取り出してみると、小さく折りたたまれた紙だった。

とりあえず広げてみる。

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神崎 萌香 様

伝えたいことがあります。
今日の昼休みに校舎裏に来てください。


K.K

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………えっ⁈

伝えたいことって…もしかして

ーーーーーっていうか、K.Kって⁉︎

え、え、えっ⁉︎

ひょっとして

桐生 櫂ーーーっっ⁇


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