メガネの王子様
◇◇◇◇◇


「桐生も1限には出るんだよっ。」


頬を膨らませながら、この場を去って行く神崎の後ろ姿を俺は黙って見送る。

開らけただけの本をパタンと閉じた。

「…調子が狂う。」

誰も居ない校舎裏の階段でひとり呟く。

最近の俺の行動は自分でも想像がつかない。

好きでもない女とキスをしたり、絡まれてるところを助けたり…

告白されてる現場から強引に連れ去ったり、さっきだって町田に触れられるのが嫌で、また連れ去ってしまった…

神崎は俺にとって特別な存在だということは認めている。

でも、一体いつから?

いつから神崎のことを信用できると思ったんだろう…………………………

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あれは確か…2年になってすぐの事だった。

見るからに大人しく冴えない地味女が、クラスの女に囲まれイジメられていた。

「くだらねぇ」と思いながら見ていると、派手な女がひとりズカズカと輪の中に入っていった。

いかにもイジメの主犯格って感じの女だ。

まぁ、顔は可愛いけど。

「ちょっと、よってたかって何やってんのよっ!くだらない事はやめてよねっ!」

ーーーえ?

あの女…止めに入った?

「だって、萌香ちゃん。この子、見た目も超暗くて気持ち悪いんだもん。」

「はぁ?見た目?そんなんでこの子の事がわかるわけないでしょ?」

派手な女は、しゃがみ込んでいる地味女の手を取り引き上げた。

「ごめんね。本当はこの子達、悪い子じゃないんだ。許してあげて。」

申し訳なさそうに地味女に頭を下げて謝っている。

「…うん。ありがとう、神崎さん///」

「萌香でいいよ。ほら、皆んなも謝って。」

イジメていたクラスの女達に謝るように促す。

「…ゴメンなさい。」

嫌な雰囲気だった教室の空気が、派手な女のおかげで軽くなった。

………神崎 萌香。

なんかコイツは他の女とは違う気がする。

それ以降、俺は神崎を自然と目で追うようになっていた。

いつも笑顔で輪の中心にいる神崎。

誰に対しても平等な態度をとるし、面倒見もいい。

ひょっとして神崎だったら……

本当の俺を見ても平等に接してくれるんじゃないか?

容姿ではなく俺の中身を見てくれるんじゃないか?

そんな想いが芽生えていった。

神崎と話すきっかけもなく時が過ぎ、あっという間に10月になる。

俺はいつものように校舎裏の階段で本を読んでいると、いつの間にか眠ってしまった。

気が付けば神崎が目の前にいて、俺の眼鏡を手に持っていた。

「ヤバイ、バレた」と一瞬焦ったが、神崎の反応は今までとは少し違った。

今までだと、すぐにベタベタ触れてきたり、襲われそうになったりしてた。

でも、神崎は頬を染め俺をただ見ているだけだ。

俺にとってはとても新鮮な反応で…

「勝手に外さないでもらえる?」

少しからかいたくなったのかも知れない。

俺は眼鏡を持っている神崎の手をパシッと掴んだ。

「ごっ、ごめんっ///」

真っ赤な顔で謝る神崎。

「いや、許せないね。どう責任取ってもらおっかな。」

とか、

「そんなに見つめんなよ、キスしたくなるだろ?」

なんて、

普段は絶対に言わない台詞がどんどん出てくる。

「な、な、なに言ってるのよっ///」

そんな可愛い反応するなよ?

キスなんてするつもりは全くなかったのに…

気が付けば、神崎の唇に触れていた。

今、思い出してもなんであんな事をしたのか分からない…

それからも、神崎の反応が面白くて可愛くて何度もキスをした。

ある日の朝、神崎が清宮って奴にキスをされてるのを目撃してしまってーーー

無性に腹が立って、神崎に冷たい態度をとったりもした。

あれ?ーーー無性に腹が立った?

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…え?

ちょっと待て。

それってーーーーーーー

っーーーっ///⁉︎

嫉妬⁉︎

清宮って奴に嫉妬したのか?俺はっ///

…………嘘だろ?


俺、神崎の事が好きなのか?


このとき、俺は初めて自分の気持ちに気付いたんだ。


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