未来(あした)が来るなら、ずっとそばで笑ってて。

咲雪は「あたしの分も長生きしてね」と言った。

自分は生きられないから、自分の生きたいという気持ちを俺たちに託したのだ。


だから、自分の命には咲雪の分の命も宿っていると考えて、今ある命を粗末にしてはいけないんだ。

……絶対に。



そのことを伝えると、悠聖は無理に笑顔を作って泣き笑いのような表情を浮かべた。



「じゃあ、生きなきゃいけないよな。
……どんなに辛くても、咲雪の分まで、生きれる限りしぶとく生きなきゃいけないよな」


悠聖は自分自身に言い聞かせるようにそう言って、目尻に残った涙をごしごしと拭った。


そして、思い出したように「これ、サンキュ」と言って手にした缶コーヒーを振って見せる。



「……お前ならやれるよ」

 
俺が差し出した手をつかんで悠聖が立ち上がる。
 




無菌室に背を向け、薄暗い廊下を悠聖と歩きだした。



悠聖はともすればまたも溢れそうになる涙を堪えるために歯を食いしばり、真っ直ぐ前を向いている。


俺は、その背中を励ますように軽く叩いた。
 


そして、俺たちはもう振り返らなかった。



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