エリート上司の甘い誘惑
園田と目配せしていた時の、少し照れ臭そうな表情を思い出す。
素直で従順なイメージから、おそらくは付き合っている間も口止めでもされていたのだろう。


それを素直に信じ、律儀に守った挙句に捨てられたのであれば、馬鹿だなと思う反面、同情もしたくなる。


旋毛に向けて、掌を落とした。
披露宴の時には丁寧にスタイリングされ、整っていた髪が今はすでに乱れている。


全く、ここで見つけて良かったと思う。
女は多少、隙がある方が可愛げがあるというのは、誰の言葉か知らないがその通りだ。


だがそれは、無責任な一時の戯れを好む男に利用されることがままある。
泥酔状態でのほつれた髪や、その髪の隙間から覗く、酒に染まった赤い肌などその最たるものであり。


溜息が出た。



「聞いてやるから、全部吐き出せ」



酔いが冷めたら説教だ。
だが、ここで確保したからには、多少の愚痴も悪態も聞いてやろう。


気遣ったつもりだ。
なのに、ぴくりとも反応しない。



「西原?」


顔を伏せたまま、しくしくと泣いていたはずだった。
だが、耳を澄ましてみればすーすーと微かな寝息が聞こえてきたのである。



「おい! ここで寝るな馬鹿!」

「……うう、やめれ」

「は?」

「揺らしたら、きもちわる、い……」



その一言で、肩を揺すっていた手を止めざるをえなかった。
ここで吐かれたらたまったものではない。

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