エリート上司の甘い誘惑

消えないキスを、もう一度





部長から聞いた話は、うろ覚えの記憶と粗同じであったが記憶にない部分は私の想像を遥かに超えた。


散々泣いたこと、くだを巻いたこと。
寂しい、哀しい、と泣き言を漏らし。
悔しい、といきなり憤ったりと散々課長を困らせたそうで、私はひたすら肩を竦め小さくなった。


そして散々『男』に対して悪態をついたくせに、私は園田の名前を一言も漏らさなかった、そうだ。


披露宴のすぐ後の、泥酔の末だ。
部長はすぐに、察することはできたそうだけど。



「あんなに泥酔しておいて。それがひどく、いじらしかった」

「い……いじ、らしい?」



いじきたない、ではなく?
いじらしい。


そんな可愛らしい言葉が、自分に向けられていることに驚いた。


視線をきょろきょろと彷徨わせる。
気を利かせたらしいバーテンダーは、最初のお酒を持ってきたきりこちらには近寄りもしない。


言われ慣れない、くすぐったいその単語が私に似合うとも思えなくて、居心地が悪くてついそわそわしてしまう。
それなのに、部長は更に言葉を繋げた。



「いじらしくて、一途で健気な、普通の女」



頭に浮かんだのは、一緒に食事をした帰り道だ。
部長が好きな女がいると言った時のことだった。



「部長の、好きな、人?」

「そう。
 今、目の前にいる」

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