エリート上司の甘い誘惑
なんて酷い女だ、と呆気にとられる。
自分で聞いてて、そう思う。
それは、本当に私の話なのだろうか。
部長の口から聞く私は、酩酊状態なのは確かにその通りだが、随分な小悪魔に聞こえた。



「……ひどい」



思わせぶりどころの話ではない。
部長を責められるわけがないではないか。



「お前が、言ったんだ」



強調するように、はっきりと、部長が私の目を見て言った。


だから、キス以上触れなかったのだと。
だけどそれきりにするつもりはなく、二人の時間の証に腕時計を残していった。


聞けば聞くほど、あの夜のことを酷く鮮明に輪郭を確かなものにし、そしてやはり現実なのだと思い知らされる。
部長の私を見つめる目が、今も熱く融かされそうな視線の意味が、わかった気がする。


自惚れじゃないと、信じていいのでしょうか。



「西原?」

「すみませ……、ほんとに……」



視線から逃れるように目を逸らした。
深呼吸する、余裕が欲しい。


そうでなければ、本当に融けそうで。
熱くて熱くて、のぼせたように熱くて、とても目を合わせてなんていられない。

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