エリート上司の甘い誘惑
「……お前は、酷い」
「え、」
「こんなに俺を翻弄して、楽しいか?」
「そ、そんな、つもりじゃ」
「急に東屋に気を許し始めるし」
「それはっ」
慌てて顔を上げて驚いた。
詰る言葉の割に、課長の顔は優しく笑っていたからだ。
「気が気じゃなかった……と言ったら。余裕がないのが丸わかりだな」
苦笑いだけれど、それでも確かに、まるで愛おしいものを見るように。
髪に触れていた手が、私の熱くなった耳に触れる。
ぴく、と瞼を痙攣させてしまい、それがまた熱を呼んだ。
「こんな顔をしておいて。俺の、思い違いだったか?」
こんな顔、とはどんな顔だろう。
私はそんなに、思わせぶりな顔を見せていたんだろうか。だけど、私にこんな顔をさせているのは彼だ。
「……西原?」
言ってくれ、と視線で声で、懇願される。
こんなにも思われていたのだということが、未だに夢の様で、だけど頬を擽る指が現実なのだと教えてくれた。