エリート上司の甘い誘惑
「東屋くん、早く……」
空気の圧迫感に耐えられず声をかけた。
漸く彼の視線が私を見た、ちょうどその時だ。
ばたばたと派手な足音がしてその緊張感を打ち破る。
「すんません、遅くなって! 事故で車が混んでて!」
飛び込んできた高見課長に一斉に視線が集中し、驚いた課長は出入り口で一度立ち止まった。
「え、何。俺そんなに遅刻だった?」
きょろ、と不思議そうに皆の視線を見返し、壁の時計を見る。
そしてへらっと笑ったことで、やっと空気が緩んだ。
「なんだ、間に合ってんじゃないすか!」
「一分前ギリギリな。渋滞は仕方ないがもう少し余裕持って来いよ」
部長も一応注意はするものの、毒気を抜かれたのか苦笑い気味だ。
高見課長からは何やらマイナスイオンでも出ているのだろうか。
さっきまでの空気が嘘みたいにいつもの穏やかな雰囲気に戻り、多分私だけでなく誰もがほっと息を吐いた。
あれほど不遜な態度で部長を見ていた東屋くんも、ようやく表情を和らげる。
同時に、やっとざわざわと声を掛け合いながらフロア全体が仕事モードに切り替わっていき。
「朝礼始めるぞ」との部長の声に、全員が起立した。