エリート上司の甘い誘惑


「日々の業務に加え、これを毎日やれというのは非効率だし非現実的だと思いますが。進捗なんて毎日あるような案件ばかりじゃないでしょう」



まるで小馬鹿にするような、含み笑いの声だ。
だが彼女はさらりとかわした。



「進捗がないなら、ない。それが報告になります。ようは、今抱えている案件の最新の状況を、必要な人間が把握できることが重要なんです。上手く行かない案件ほど、人は報告したがらないものですしね」



デキる女、というのは彼女みたいな人のことをいうのだろうか。
などと、感心している場合ではなく。


この空気で、私に一体何が発言できるだろうか。


冷や汗が出て来た。
聞きたいことは、あったりする。


今みたいに、反発ばかりしていたって仕方ないと思う、ここまでシステムが出来上がっているのならもうこれは決定事項なのだ。


ならば。
だけど……自分が聞きたいと思ってることがすごくくだらないことだったらどうしよう?


とか。
周囲の空気に押され、声など出せそうにないと、尻込みしていた時だった。


とん、とん。
と指で部長が私を呼ぶ。


ふ、と視線を向ける前に、耳元で囁かれた。



「難しいことを考えるのは、SEの仕事」

「え……」

「実際に使うのは、俺やお前も含め、専門家でもなんでもない一社員だ。使う側からの発言をすればいい」

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