イケメン御曹司のとろける愛情
 マンションの部屋に戻ったときには十時を回っていた。電車の中ではどうにか耐えていたけれど、ついに涙の堤防が決壊して、泣きながらバスルームに飛び込んだ。熱いシャワーを頭から浴びながら、声を上げて泣く。

 痛い。すごく胸が痛い。

 悔しい、悲しい、苦しい。でもなにより、周りがなにも見えていなかった自分のイタさが情けない。

 いくらでも泣けそうだ。

 泣いて泣いて声が枯れて、体ものぼせてフラフラになって、ようやくシャワーを止めた。バスルームから出て鏡を見て、苦い笑みがこぼれる。

 目は真っ赤で顔もむくんでいる。これ以上ないくらいブサイクだ。

 ゆったりしたホワイトシャツとジーンズを着て、冷蔵庫から出した冷たいペットボトルをまぶたに当てた。

 リビングのソファに座って頭をソファの背に預ける。深いため息をついたとき、ローテーブルに置いたバッグの中でスマホが震える音がした。

 体を起こして手を伸ばし、スマホを取り出すと、液晶画面に“水無川翔吾”の文字。

 吐き気が込み上げてきて、そのままスマホをバッグに戻した。七回のコール音のあと、自動的に留守番電話サービスに接続される。

 コール音が消えてホッとして、なんとなく着信履歴を見たら、翔吾さんから三回電話があった。
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