【短編】ずるいよ、律くん
「…聞いてる?」

「聞いてる、…違わない、めっちゃ脆くないっ…」

「ふ、何それ」



---なんで、気付かなかったんだろう。

イルミネーションの光を受けたって一向に輝かないのは、彼の瞳は光の差し込む隙がないくらい、私で埋まっていたからだ。

私が、ジンクスだとかイルミネーションだとか、他のものに縋ってよそ見をしている間も、彼はずっと私を見ていてくれたんだ。



「っ、律くん、ごめんね…」

「…は、ちょ、なんで泣きそうになってんの」

「律くん、私が泣きそうになったらいつも、似合わない焦り顔してくれたよねっ…」

「……泣きながら喧嘩売らないでよ、買いにくいから」

「だ、だって、だってええ」



律くんが、あーもう、なんて言いながら今にも零れ落ちそうな両目の水たまりを親指ですくってくれる。現実主義でクールな彼だけど、その指は誰よりも温かい。

触れる度にその先から伝わってくる陽だまりのような温もりを、私はずっと近くで感じていられるのだと思うと、余計に止まらなくなってしまう。



「…そんなにツリーが好きなんて知らなかった、ごめん」

「えっ」

「え?」

「…ツリー?」

「…が、好きなのに、木と電気とか貶されたから、今泣いたんじゃないの?」

「……」

「……」

「…あはっ」



我慢しきれず盛大に吹き出してから、鈍いなあなんて馬鹿にする。そしたら律くんは、それはそれは鋭い睨みをきかせて『今ならいくらでも喧嘩買うけど』と言うので、私は間髪入れずに謝った。


それでも一度ツボに入ると止まらなくなってしまう性分なので、どうにもコントロールできず、歩き始めた夜道の途中で再び笑いだしてしまったけれど、彼は妥協したのかもう何も言ってこなかった。
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