クールな次期社長の甘い密約

しかし、彼女の言葉はそこで途切れ、すぐにいつもの笑顔に戻って歩き出す。


麗美さんが何を言おうとしたのか気になったけど、なんだか聞くのが憚(はばか)られ、何も言わず彼女の後ろを着いて行く。


そして、駅の改札を入ると麗美さんは私の肩をポンと叩き「明日、お昼休みの時間が合ったら一緒にランチしよう」と言って反対方向のホームに駆けて行った。


明日からは、もう麗美さんは隣に居てくれないんだ。なんだか寂しいな。なんて、おセンチになりながら私も家路につく。



――で、翌日。初出勤の朝……


昨夜は夜中まで麗美さんに貰った化粧品でメイクの練習をしていたから少々寝不足だ。というより、不安で眠れなかったというのが本音かな。


初めてのお化粧は、それはそれは酷いモノで、何度もやり直している内に見るも無残な顔になり、これならすっぴんの方がよっぽどマシだと思うほどだった。


毎日、お化粧してる世の中の女子ってホント凄い。尊敬してしまう。


気合いを入れて再びチャレンジしてみるが、眉はどんどん太くなり、右と左で形が全然違うし、アイシャドーとチークの色の濃さの調整が上手くいかない。


極め付けは、アイライン。リキッドタイプとやらで、短いと思って書き足すと、とんでもない方向に跳ねてしまい思わず悲鳴を上げる。結局、どうにもこうにも収拾がつかなくなり、お化粧を落としてしまった。


あぁ~もう時間がない。初日から遅刻するワケにはいかないし、今日はすっぴんで行こう。


自分の不器用さに呆れながら眼鏡を掛け、鞄を持つとマンションの部屋を飛び出した。

< 11 / 366 >

この作品をシェア

pagetop