クールな次期社長の甘い密約


――翌日……


出勤初日の昨日は、朝のロッカールームが異常に混むって事を知らなかったから、普通に出社してエライ目にあった。なので今日は、少し早めに出社し、人影まばらなロッカールームで素早く着替えを済ませる。


昨日、あれから専務室を出た私は、完全に思考回路が停止してしまい、どうやってマンションに帰ったのか覚えてない。マンションに帰っても頭がボーっとして放心状態だった。


唯一覚えているのは、エレベーターまで送ってくれたあの正体不明の男性、倉田さんが「私は、専務の秘書です」と言っていた事だけ。


秘書と言えば女性だろうと思っていたから意外で印象に残っていたのかも……


でも、思い起こせば、昨日は本当に刺激的な一日だったな。素敵な王子様の専務が冴えない私に魔法をかけてくれたんだもの。まるで現代のシンデレラだ。


その魔法は朝になっても消える事はなく、美容院の店長に教えてもらった通りにお化粧をして髪をセットすると鏡の中の私は再びシンデレラに戻った。


もちろん店長みたいに上手には出来なかったけど、以前の私に比べたら雲泥の差。鏡に映った自分を見て微笑んだのなんて初めてだ。


お洒落するって楽しい……そう思ったのも初めて。そして、男性にあんな風に抱き締められたのも……


「ヤダ、思い出しただけでドキドキしちゃう」


けれど、ちゃんと分かってる。専務は私の激変に驚いただけで私に好意なんてないって事を。そこまで自惚れたらバチが当たりそうだもの。

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