クールな次期社長の甘い密約

「なんですか?」

「一、二回使ってもう使わなくなったメイク道具。茉耶ちんったら、なーんも持ってないって言ってたからさ、研修中はいいけど、明日からはメイクしないとマズいっしょ?」

「えっ、マズいんですか?」


どうしよう……私、自分でお化粧した事ない。


膝の上のポーチを握り締め冷や汗タラり。


「それにさ~前から思ってたんだけど、茉耶ちんって肌も綺麗だし目もパッチリしてる。そんでもって、髪もこんなにツヤツヤじゃない。なのに、どうしてお洒落しないの?

そのおかっぱ頭と地味な眼鏡やめたら結構いい感じになると思うんだけどな~」


私だって曲がりなりにも女だ。麗美さんにそう言ってもらえたのは嬉しかった。でも……


「私、目立つの苦手で……」


すると麗美さんが、お弁当を食べる手を止め首を傾げる。


「目立つのが苦手って……その風貌の方が、よっぽど目立つと思うんだけど……」

「へっ? それ、マジですか?」


知らなかった。地味な格好してたら誰にも見られないと思っていたのに……


麗美さんの言葉は、私が信じて疑わなかった"地味=目立たない"という定説をいとも簡単に覆してくれた。


「そりゃそーでしょ? 今時、そんな髪型してる娘居ないし、どこでカットしてるんだろうって反対に気になるよ。で、その髪どこでカットしてんの?」

「あ……自分で……」

「はぁ? 自分で髪切ってるの?」


麗美さんが顔を引きつらせ絶句している。これは、俗に言うドン引きってやつだろうか?

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