クールな次期社長の甘い密約

同姓同名の人が居るのかとキョロキョロしてみるが、立ち上がる人は居ない。どうやら呼ばれたのは間違いなく私の様だ。


でも、なんで私なの? 受付って、玄関ホールのカウンターで来客の相手をするのが仕事だよね? という事は、笑顔と接客が重要になる。


無理だ……私には一番不向きな仕事だ。それに、受付と言えば会社の顔。綺麗な女性が任されるってのが暗黙の了解じゃないの?


どう考えても納得いかなくて座ったまま固まっていると、麗美さんが私のスーツの裾を引っ張り「茉耶ちん、やったね!」って親指を立てる。


「な、何がやったんですか? 私、受付なんて死んでもイヤです!」

「何言ってんのよ~合コンで受付嬢してるって言ったらインパクト大だよ。食い付いてくる男絶対居るって!」


受付になるメリットってそれなの?


「あの、私、合コンなんて行かないんですけど……」


やんわり否定するも、笑顔の麗美さんに腕を掴まれ無理やり立たされた。そして、思いっきり背中を押される。その反動で前のめりになりながら最前列まで来た私は、悲壮感漂う目で背の高い課長を見上げた。


「あの、本当に受付なんでしょうか? 何かの間違いでは……」


すると課長も私を二度見し「えっと……大沢茉耶さん……ですよね?」と戸惑い名簿を捲って確認している。


「はい、大沢です」

「あ、いや、確かに大沢茉耶さんは受付になってます。間違いはないですね」

「そんな……」

< 8 / 366 >

この作品をシェア

pagetop