ドストライクの男
「小鳥ちゃん、頭が痛いの?」
光一郎と三日月が少し小鳥から離れた隙に秋人が近付く。
「あっ、大丈夫です。頭が良過ぎるので、時々こうなります」
ハァ? と秋人は小鳥を見る。
「君ってやっぱり面白い」
そして、クッと笑うと小鳥の頬に手を添え、顔を覗き込む。
その瞬間、「触るな!」と小鳥は腕を引かれ、ポスンと大きな胸の中に抱き留められる。
爽やかなフルーティーグリーンの香り……これはエルメスのナイルの庭。
三日月とは違う香りに、何故か小鳥の胸がキュンと締め付けられる。
「あのぉ」胸から顔を上げると光一郎の美しい顎のラインが目に入る。
これはいけない。距離が近過ぎる。
慌ててその腕から抜け出そうとするが、離れるどころかグイッと力を込められる。
「お前何だ!」
苛立った秋人の声に光一郎はシレッと答える。
「僕は彼女の婚約者だ」
「ハイ?」小鳥と秋人の声が重なる。
「あーあっ、言っちゃった」
お道化たような三日月の声。
「……あの、社長?」
三日月は綺麗なウインクを一つすると光一郎の腕の中の小鳥を憐みの目で見つめ、ソッと耳打ちする。
「彼が私の言っていた男性よ。可哀想に、こうなっちゃったら、もう逃げられないかも」
ヘッ! 目を見開き再び光一郎を見上げる。
彼がパパの見つけたドストライクの男!
急激に高鳴る胸とのぼせたように熱くなる頬をどうしていいか分からず、小鳥がオタオタしていると、それに気付いた光一郎は小鳥の後頭部を押え、もう一度胸に押し付け囁く。
「その顔、今後一切、僕以外の誰にも見せるな!」
焦ったような光一郎の声に、それほどまでに情けない顔なのだろうか、と小鳥は彼の胸で顔を隠す。