ドストライクの男
「ねぇねぇ、どういうこと? モテキ到来?」
ベリ子がコソコソ小鳥に訊ねる。
「さあ、どういうことでしょう? 全く意味不明です」
「んー」とベリ子は腕を組み、小鳥の頭の先から足の先までジッと眺める。
「いつもよりはマシな服装だけど……」
何処にモテ要素があるのかしら、と真剣に考え導き出したのは……。
「もしかしたら……黒縁眼鏡がトレンドなのかしら?」
だったら、すぐに眼鏡屋に行かなきゃ、とブツブツ呟き、「そうだ!」と小鳥の手を取りギュッと握る。
「とにかく、私は光一郎さんを押すわ! やっぱりカフェの店長よりスイートルームの王子よ!」
押してもらっても……と思いながら、秋人が御曹司だと知ったらベリ子の態度は一変するだろうなぁ、と小鳥は苦笑する。
「ところでベリ子さんは玉の輿のお相手を探さなくてもいいのですか?」
「目ぼしい人たちへの挨拶は済んだから、これからジワジワ攻めるわ」
べリ子が指に挟んだ名刺の数々を自慢げに見せる。
なるほど、と頼もしく素早いべリ子の行動に小鳥は心から感心する。
「でも、それより確実なのは小鳥が光一郎さんと結ばれ、私に御曹司を紹介してくれる方法よ。だから私のためにも頑張ってね」
ポンと肩を叩き「デザートを取ってくるわ」とベリ子は飛び跳ねるようにフードコーナーに突撃する。
頑張る? どう頑張るのだろう?
帰国して以来、数式も物理学の公式も当てはまらない疑問が多い。
小鳥は米神をグリグリしながらソッと溜息を付く。
本当、ドストライクの男なんて……宇宙の遥か彼方だ。