ちいさなキセキ

4月

 ひらひら。
 ひらひら。
俺の目の前に落ちていく、ピンク色の桜の花びら。
「乙偉ー?」
 トン、と誰かが俺の肩に手を置いた。
「・・・凌」
「やっぱり乙偉だ。入学おめでとー」
 やっぱ俺って天才、とかなんとか言っている凌は放置。
「クラス見てないな・・・」
「マジー?じゃあ一緒に見てこうぜ」
「んー」
 スッと歩き出した凌に並ぼうとした。
 が。
「・・・っ」
 桜の木の下。
 栗色のセミロングの髪をなびかせる少女。
 そよ風に揺られるスカートを少し押さえながら、不意に俺の方を向いた。
「・・・っっ!!」
 一瞬だけ。一瞬だけ、目が合った。少し驚いたような顔をして、ふっと笑った。
「・・・い?乙偉?おーい、乙偉!」
「へ?」
 パシン、と。
 凌が俺の頬を叩いた。
「いってぇ・・・!」
「返事くらいしてよー、もー」
「っ、叩くな!」
 ははっと朗らかに笑う凌。
「あ、そうだ。俺と乙偉、同じクラスだよ」
「え、マジ?」
 俺は1年間、凌の子守りか。
「・・・」
「え、なに」
「乙偉、今子守りがどうとか考えたでしょ」
「おー、よくわかったな」
「ひどいよー!!」
 本当に悲しそうな顔をする凌に、クスッと笑ってしまう。
「早く武道場行こうぜ。遅れたら面倒」
「マジか」
 言うなり、走り出した凌。
「ちょ、待てよ!」
 俺も、遅れて走り出す。
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