【完】『浅草心中』
少しして。
駕籠で乗り付けた外記が平右衛門の家まで来ると、
「私はちょいと煙草を買いに行って参ります」
と平右衛門は場を離れた。
しばらく外記は綾衣と睦みあっていたが、
「…」
無言で綾衣が襟をくつろげると、外記は脇差をすらりと抜いて、
「…!」
と綾衣の胸を突いた。
綾衣がしがみつく。
黙って外記はうなずいてとどめを刺すと、
「…二十八か、短くはないな」
とのみ言い、武家の作法通りに腹を十文字にかき切って、綾衣のあとを追った。