【完】『浅草心中』
八月十三日。
かねてより計画されていた足抜け、すなわち脱走は実行に移された。
この日はいわゆる、
「紋日」
というもので、吉原では年中行事に合わせたお祝い事をする。
で。
この日の揚代は通常の倍の値が張るのだが、外記は前以て約束を大菱屋に取り付け、綾衣に仕舞いをつけて一日自由に過ごさせるという段取りを踏んだ。
ここで綾衣はかねてからの手筈通り、吉三郎のつてで落ち合う先として、鷹匠同心の餌差の平右衛門の浅草寺田んぼと呼ばれたあたりの家まで脱け出した。