secret justice
第14話

「和室は襖が開いてて、部屋の畳が見えただけだから分からない。リビングとキッチンは繋がってるけど間取りはこんな感じだったわ」
「倒れていた四人の場所と体の向きはどうでした?」
「更科さんがリビングの入り口、廊下のすぐ脇でリビングを頭の方にしてうつぶせに倒れていた。おじいさんも和室の方向に逃げようとしてる感じで和室の方向に頭を向けて倒れていた。奥さんは逃げられなかったみたいでリビングのソファーで倒れていた。おばあさんも多分同じだったんだと思うけど、キッチンの冷蔵庫の前で倒れていたわ。犯人がキッチンのどこに隠れていたかは分からないけど、おばあさんを見てるときに後ろから刺されたの」
「なるほど。殺害の順番は天野さんが見たような順番でまず間違いないみたいだね。リビングに入ってすぐに男性陣を襲い、それから弱い女性陣に移った。その前に一番若い勇気さんを殺害してるだろうけどね。勝手口とかは見あたりませんでした?」
「勝手口は冷蔵庫の横にあったわ」
「なるほど……」
 そう言うと真は再び思考タイムに入る。
(普通に考えて目出し帽なんて目立つ格好で玄関から入って一家を殺害することは考えられないから、目出し帽の男は勝手口から侵入し一家殺害の現場を目の当たりにしたあと、天野さんに遭遇し驚いて殺害したと断定していい。つまりこいつは一家殺害とはまず無関係。一方さっきの殺害順から、一家を殺害した真犯人は勝手口からは入っていない。勝手口から入っていたら更科さんが廊下からリビングに向けて倒れてはいないはずだ。それに勝手口から入りおばあさんを殺害した時点で更科さんがキッチンに駆けつけるはず。つまり、真犯人は正面玄関から通されるような普通の人物で、殺害順から推測すると勇気さんの知り合いの可能性がある)
「天野さん、勇気くんの素行調査は誰がしたんですか?」
「調査は基本的に久宝さんがやってたわ。私は資料をまとめたり報告が主だったから。どうして?」
「勇気さんの知り合いに一家殺害の犯人がいる可能性が高いからです」
「えっ! そんな……、報告書を見たけど、そんなトラブルを抱えてるような感じじゃないわよ?」
「僕も動機は分からない。けど天野さんから聞いた状況を考えるとその可能性が高いんだ」
「そうなの? 真君がそういうのなら間違いないと思うけど……」
「ちょっと久宝さんに電話して素行調査の件を聞いてみるよ」
 真はさっき登録したばかりの番号に電話をかける。しかし電源が入ってないようで全く出る気配はない。
「全く出ない。何かあったのかな?」
「真面目に調査してるか、酒を飲んで寝てるかのどっちかだと思うわ」
「ははっ、前者であることを祈るよ。仕方ない自分で調べられることは調べるか」
 そういうと真は椅子に座ったままパソコンラックに向かいパソコンの電源を入れる。
「勇気君のことについて調べるのね?」
「うん、とりあえず報告書にあるNPO法人について調べてみるよ」
 パソコンの起動をしばらく待ってから、真は慣れた手つきでNPO法人の検索を始める。検索をするとすぐにヒットし、さっと概要にだけ目を通す。

『NPO法人《空》』

代表者:佐々木寛之
本部:茶屋咲駅本部
支部:八雲駅支部・竜ヶ崎支部・羽ノ矢支部
活動目的:駅周辺の清掃活動を通じての社会貢献や人材育成・青少年保護を目的とした巡回等

「よくあるタイプのNPO法人みたいね。勇気君は八雲駅支部所属よね?」
「うん、勇気さんの所属している八雲駅支部へのリンクを開いてみるよ」
 リンクを開くと『空』という大きな文字が現れて、流れ星のCGにのってインデックスが現れる。インデックスは上から順に、

・活動内容
・メンバー紹介
・掲示板
・Q&A
・募集要項
・リンク

と、なっている。
「やっぱりメンバー紹介が一番気になるわね」
「そうですね、開いてみましょう」
 メンバー紹介をクリックする八人の名前とちょっとしたプロフィールが見られる。一番上の大学生のリーダーを筆頭に、高校生までの男女で構成されていて、勇気は三番目に登録されていた。プロフィールを見ると真面目で勇気らしいコメント等がしてある。
 勇気の項目をチェックし終えると、他のメンバーの名前に心当たりがないか念のためメモっておく。次に掲示板を開くと、予想はしていたが勇気の死を悼む書き込みが支部内外のメンバーから寄せられている。
「この書き込みの多さと内容からだと、勇気君ってそうとう慕われてたみたいね」
「みたいですね。殺害される動機が見あたらない」
 真は掲示板に多数寄せられている哀悼の書き込みを一つずつゆっくり読んでいく。その中で見慣れた名前の書き込みを見つける。
「佐々木啓介、これ生徒会の佐々木先輩だ!」
「ああ、あのメガネの目の鋭い子ね」
「内容は、『soraの活動に多大に貢献し、みんなの手本になってくれた更科さんに深く哀悼の意を捧げます。本部リーダー佐々木啓介』先輩は本部のリーダーだったのか、じゃあ代表者の佐々木って人は先輩の親族かもしれない」
「じゃあ、メガネ君に勇気君のこと聞いてみたら? 何か分かるかもよ」
「メガネ君って、メガネかけてるすべてのユーザーに失礼な。明日、明後日と学校は休みだから先輩に会う機会がない。でも明日はここの活動日みたいだから、直接本部に会いに行って聞いてみることにしよう」
「でも、警察でもない真君が何で事件を調べてるのか聞かれたらどうするの?」
「また偽外交官の調査と言うのが早いかもしれない。鹿島先輩から話が漏れてないと百%は言い切れないし、設定は統一しといた方が面倒じゃなくていいと思う」
「確かにその方が無難かもね」
「できれば深く追及されたくはないけど、必要に応じ使い分けていくしかない。佐々木先輩も一筋縄ではいかない人だと思うし。念のため佐々木先輩以外にもここで活動している人がいるかもしれないから一通りメンバーを調べてみるよ」
 八雲支部を閉じて本部のメンバー紹介を開く。佐々木を筆頭に十人程のメンバーがいるがその中にお馴染みの名前を発見した。
「鹿島さんもメンバーだったのね。これで明日会えるじゃない。よかったわね~、愛しの鹿島さんに会えて」
「からかわないで下さい。鹿島先輩とはまだ何もないんですから」
「まだ、でしょ? 明日には何かムフフなことがあったりして」
「それはもういいですから、僕はメンバーチェックをするので少し静かにして下さい」
 怒る真に天野はお得意のアメリカンジェスチャーを披露する。本部・竜ヶ崎・羽ノ矢・のメンバーをすべて確認したが、真の知っている名前は佐々木と鹿島くらいしか見受けられない。すべての掲示板の書き込みにも殺害を匂わせるようなものなく収穫は無しだ。
「こうなると、嘘とはいえ僕の事情を知っている鹿島先輩に協力してもらうのがベターかもしれない。佐々木先輩にだとまた説明しなきゃいけない上に信じさせなきゃいけないからね」
「う~ん、助かるのは間違いないだろうけど、今回の事件に関してはできるだけ女の子を巻き込まない方がいいんじゃない? 今の真君も十分危険だし」
 遥は珍しくしおらしい慎重な意見を述べる。
「確かに鹿島先輩のことはそうですね。でも、僕のことは気にしなくていいですよ。今日も言いましたけど、僕はこの事件の犯人を許せないし、側にいる天野さんの気持ちが痛い程分かるから、なんとかしたいと思ってる。危険は承知ですよ」
「真君………、そんなクサいセリフ言ってたらモテないわよ?」
「う、うるさいなぁ!」
 照れながら文句を言う真を見て、遥は笑顔になる。
「でも、真君のそんな純なところ、お姉さんは嫌いじゃないわよ」
「僕に憑いてる天野さんに好意をもたれても微妙なんですけど」
「あはは、確かに。好意を持たれて、ずっと憑かれたら嫌だものね」
「そういうのシャレにならないから止めて下さいよ。ちゃんと事件は解決しますから、成仏して下さい」
「はいはい、前向きに善処します」
「頼みますよ、本当に。あ、今思ったんですが、天野さん知人や友人に、頼りになりそうな方とかいませんか? できれば大人の方で」
「それは私もずっと考えてたわよ。でも、ロクな人がいないのよね。一人だけ心当たりがあるけど、その子はまだ学生だし鹿島さんと同じで女の子なのよ。だから巻き込みたくないのが本当のところかな」
「そうですか、では現状久宝さんを頼るしかないですね。じゃあ、明日は朝一で茶屋咲駅本部の佐々木先輩に会いに行きましょう。佐々木先輩ならあまり突っ込んだことは聞いてこないかもしれないし、天野さんの言うとおり鹿島先輩にはこれ以上関わらせない方が無難だと思うからね」
「愛しの鹿島さんを巻き込みたくないものね」
「はいはい」
 ニヤニヤする遥を無視して真はパソコンの電源を切った。


< 14 / 36 >

この作品をシェア

pagetop