secret justice
第18話

(なんで、こう毎回毎回トラブルに巻き込まれるんだろうか……)
 晶の住むマンションに招かれた真は、普通のコップに入れて出された熱い昆布茶をすすりながら自問自答をする。
(つーか、コップに熱いお茶を入れてくるのはどーかと思うんだが)
 テーブルを挟んで目の前に座る晶をチラっと見ると、真の一挙手一投足をじーっと見ている。熱々のコップを置くと晶に話しかける。
「事件解決に協力するかしないかはまず措いといて、僕と久宝さんの関係をなんで君は知ってるんだ?」
「その前に、『君』じゃなくて晶って呼んで。なんか『君』って呼ばれてるとバカにされてるみたいでヤだし」
「分かったよ。で、晶はなんで僕が事件に関わっていることが分かったんだ?」
「それは、兄さんに聞いたから。単純でしょ」
「久宝さんに聞いたってことは、僕が事務所を出た直後に君……、じゃなく晶は久宝さんに会ったんだな?」
「そ、兄さんに今走って出ていった人が誰かと尋ねたら、『一緒に調査してる人だ』とだけ教えてくれた」
「じゃあ、なんでさっき容疑者扱いしたんだ? 味方だってことは知ってたんだろ?」
「ちちちっ、甘い」
 晶は人差し指を振りながら講釈する。
「敵を欺くにはまず味方から、という格言があるでしょ? 兄さんの調査を手伝うフリをして兄さんを殺害する機会を伺っていたヤツかもしれない。真犯人が仲間内にいた、なんて話、よくあるでしょ? だから最初からカマを掛けて近づいたの。兄さんが騙されてた可能性を考慮してね」
「なるほど」
「でも、話した感じや応答の内容、視線の動きを観察したけど、真は嘘をついてなかったし動揺もしてなかった。それに……」
「それに?」
「すごく悲しい目をしてた。『大切な人をなくした』って言ってたときの真の目は、人を刺して火を付けるような人間の目をしてなかった。だからあたしの正体を明かしたし、事件の調査を依頼したの」
(なるほど、だからあんなに僕を観察してたのか。方法はともかく観察力や思考能力は大したヤツだな)
 真は少しぬるくなって普通に持てるようになった昆布茶をすする。
「そういうことか。晶は今回の事件に関してどこまで聞いてる?」
「なんも聞いてない」
「はっ?」
「だからぁ、何にも知らないの」
「でもさっき公園で、今回の事件とちょっと前にあった事件両方を解決してって言わなかったか?」
「真と兄さんが調査してた事件が何かは知らない。けれど兄さんが殺害された事件と前にあった事件とは殺害方法や手口が似ている。二つの事件が繋がっていると考えるのが自然だし、真の受け答えや反応で兄さんと真が前の事件を調査してたんだということは推理できた。つまり兄さんは前の事件の真相に迫ったから口封じされたと考えられる」
(探偵の妹はみんなこんな感じなんだろうか)
「なるほど。確かに晶の言うとおり、僕と久宝さんは二日前にあった一家刺殺放火事件の調査をしていた。そして、その犯人に久宝さんは……」
「殺された、でしょ。あたしに気を遣わないでいいよ。あたしそんなに弱くないから」
 晶は全く変わらない口調で言う。
(この子はなんでこんなに平気でいられるんだ?)
「悲しく、ないのか?」
「悲しいよ。でも、悔しいという気持ちと、犯人を許せないという気持ちの方が今は強い。だから犯人が捕まるまではきっと泣かないと思う。兄さんの死体が司法解剖で帰ってこなくて見れないというのも逆に救われてるけど」
(耳が痛いな、僕は間違っていたのかもしれないな)
「真はなんでこの事件を調査してるの?」
「なぜ、か。最初は成り行きというか、半ば強引に調査をすることになった。けれど、今は違う。ある人のために事件を解決したいと思ってる」
 真は吹っ切れたように協力する意志表示をする。
「ある人のため……、あたし?」
「違う」
 真は即答し、晶もさも当たり前のように無表情で受け入れる。
「だよね。まあ、あたしは誰のためでもいいから、事件を解決してくれればそれでいいんだけどね。で、調査はどこまで進んでたの?」
「どこまでって、それを聞いてどうするんだ?」
「は? 事件を解決するために決まってるじゃん」
「あ、もしかして晶も調査する気なのか?」
「当たり前じゃん。真一人じゃ不安だし」
(完全に格下扱いされてるし)
「でも、今回の事件は本当に危険だ。それは分かってるのか?」
「愚問」
 晶はばっさりと切り捨てる。
「晶って、まだ中学生だろ? 怖いとかいう感情はないのか?」
「ないことはない。けれど悪は許せない。悪を憎む気持ちがあたし恐怖心を上回ってるの。だから大丈夫」
(ホントに正義の味方みたいなヤツだな)
「分かった。じゃあ今まで調査してきて分かっていることを話すよ」
 真は遥のことは伏せて、更科さんからの依頼から始まって勇気の仲の良い友達を突きとめたことなど、今まで調査してきたことを話す。
しかし、
「ふむ、なんかおかしい」
 晶は首をかしげる。
「ん? 分からないトコとかあったか?」
「分からないトコ……。そう、それ! 真がなんでこの事件に関わったのか。その肝心なトコが抜けてる。関わった動機は?」
(話さないと説得できないだろうが、話しても信じてもらえるかも微妙だな……)
「話してもいいけど、突拍子もない動機だから信じてもらえないかもしれない。それでもいいのなら話すよ」
「オフコース、プリーズ」
「分かった、じゃあ話すよ」
 真は事件現場で遥に取り憑かれたことから始まり、遥と体験してきたことや遥が見た事件当時の証言、今日公園で別れたことすべてを語る。晶はそれらの話を真剣に聞いている。
「だから、今となっては動機を証明することはできない。信じてくれるか?」
 真の問いに晶は目を閉じて腕組みをし、何かを考えているようだ。三分くらい経つと晶は突然椅子から立ち上がる。
「ど、どうした?」
「資料は、真の家にあるのね?」
「ああ、持ち歩くのも危険だし机の引き出しにしまってあるよ。取りに行くのか?」
「ううん、違う。確認しただけ。まず、今から勇気の友達の永田ってヤツに会いに行こう。そのあと真の家に行く。OK?」
 晶は一方的に仕切るが真は疑問を感じる。
「OKというか、まず幽霊の話は信じてくれたのか?」
「愚問。それに真の家に行けば天野さん直筆のメモがあるんでしょ? その筆跡を見て判断もできる。だからこの話は終了。今やるべきことは永田に会い、勇気の交友関係を聞き出すことが建設的。あたしの計画間違ってる?」
「……いや、完璧だ」
「じゃ、行こっか。聞いた住所ならちょうどここの十三階だし。ただし、あたしは真の友達という設定でついて行くから、永田と話すのは真がやってよ。紹介を受けたのはあくまで真なんだし」
 真は晶にうながされるように立ち上がる。新しいパートナーを引き連れ再び事件の調査に足を踏み入れることになった真だが、その目に迷いはない。今度こそは遥との約束を離さないようにと、心にしっかりと強い意志を固めていた。

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