secret justice
第24話

「なんかひらめいた?」
「いや、全く」
「ふむ。二人でこれだけ考えても分からないとなると、資料からでは行き着かないことなのかもね。答えからは資料に繋がるけど、資料から答えには繋がらない。資料の中の何かを犯人が見た場合はヤバイと思うけど、あたしたちが見てもなんともないことなんだと思う」
「それじゃあ探すのは困難だろ。どうするんだよ?」
 晶はバナナシェイクを飲みながら『さぁ?』のジェスチャーをする。
「ったく……」
 真は背伸びをして肩の力を抜く。今日はいろんなことが起きすぎて真もかなり疲れている。 そこへ突然背後から声がかかる。
「あ、草加君発見!」
 店内に響く大きな声で真を呼ぶ人物を見ると、そこにはトレイを抱えた生徒会の木村が立っていた。よく見ると木村の後ろには背の低い会計役の深山も一緒だ。真は周りの他のお客の視線を感じながら二人に挨拶をする。
「木村先輩に深山先輩、こんばんは」
「こんばんは、って……」
 木村は晶をチラっと見てからニヤっとする。
「私たち。お邪魔みたいね~」
(ヤバい、激しく勘違いされてるな。このままでは明日学校でのトップニュースにされてしまう)
「あの、木村先輩。勘違いされては困るんですが彼女は……」
「従姉妹の、晶子と言います! 初めまして」
 真の言葉を遮り、晶は従姉妹という部分を強調して自己紹介する。木村は実に分かりやすい顔で「なぁ~んだ」って表情をする。
「草加君の従姉妹さんなんだ。私は木村聡美。草加君と同じく生徒会にいるの。こちらこそよろしくね」
 聡美は明るく挨拶を交わす。背後にいた深山も聡美にならって挨拶をする。
「私は深山瞳(みやまひとみ)。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
 晶は頭を下げる。初対面の人物には猫を被るようにできているらしい。
「木村さんに深山さん。同じ席に座っておしゃべりしませんか?」
 晶はニコニコしながら愛想良く二人を誘う。この笑顔にはいつもたくらみが存在していることを真は理解している。
「じゃ、お言葉に甘えて」
 聡美は誘われるまま晶の横に座る。瞳はそれを見てから真の横に座る。 瞳は聡美とは正反対で物静かでおとなしい。しかし、一端議論や討論となると物静かな姿勢から的確で鋭い意見が次々出される。その冷静さと的確さ、計算の速さを買われ会計役を任されていた。
 真は二人に見られないように資料のコピーを手際よく片づける。しかし当然のごとく聡美がつっこんでくる。
「その資料みたいなのはなに?」
「え、これは……」
「これは私が今書いている小説のネタなんですよ」
 真が話す前に晶は割り込んで笑顔で嘘をつく。
「私、推理小説が好きでよく書いているんです。そこで同じく推理小説が好きな真さんに意見を聞こうと思って今に至ってるんですよ」
「へぇ~そうなんだ。確か深山も小説好きだよね?」
 聡美はハンバーガーを食べようとしている瞳にタイミング悪く話をふる。
「うん、結構好きな方。でも、生徒会の中ではジャンヌが一番小説好きじゃないかな? いつもいろんな本も読んでるもの」
「確かにそうね。しかもジャンヌ、ホラー好きなのよ。この前もそれ系の小説読んでたし。怖い怖い」
 聡美はおどけて見せる。瞳は一息ついてハンバーガーを食べ始める。晶は二人を観察して何かを探ろうとしているようだ。
「あの、木村さん。そのジャンヌさんって方はどんな方なんですか?」
「ジャンヌ? あっ、ちなみにジャンヌって言っても外人じゃないからね。ジャンヌってあだ名の同級生のことなんだけど。彼女、すっごい強い子なのよ」
 晶はふんふんと真剣に聞く。
「生徒会活動も普段から先頭に立って動くし統率力も抜群。運動神経も良いし人気もある。小さい頃から合気道もやってたみたいだし。プライベートでもいろんな英雄談があってね。電車内で見つけた痴漢をビンタではり倒したって話は校内でも有名よ。で、そこから付いたあだ名が『ジャンヌ・ダルク』まさに的を射たあだ名でしょ?」
「はは、すごい人がいるんですね~」
 晶は関心したように驚く。聡美は食べるのも忘れて話を続ける。
「ジャンヌの英雄談と言えば外せないのが、生徒会の活動報告会での演説ね。生徒会ってある期間ごとに全校生徒の場で活動報告や生徒から直接意見を聞く場が持たれるの。んで、ちょうどそのときに会長が病欠しててジャンヌが急きょ代役をすることになったんだけど、そこでまた面白いことがあったのよ~」
 真と瞳は黙ってポテトをかじりながら聡美の演説を聞いている。聡美が普段からおしゃべりなのをよく理解しているのだ――――


――十分後。
「……でね、その生徒に何て言ったと思う?「黙れ!」と、一喝よ。シーンとした全校生徒が壮観だったわ~」
 聡美は席についてからハンバーガーに一口も口をつけないまましゃべり続ける。晶は相変わらずニコニコしながらジャンヌの英雄談を聞いている。
「言い換えれば、アイツは重戦車みたいなヤツね。真っ直ぐで自分の信念を貫くところとか。あ、周りをかえりみない強引さもね」
 本人がいないことをいいことに聡美は言いたいように優のイメージを表現する。本人がここにいたら怒りの鉄拳が繰り出されていただろう。
「へえ~、じゃあジャンヌさんは正義を地で行くような人なんですね~」
「そうなのよ。曲がったことが大嫌いで正に竹を割ったような性格。そこに良い部分もあるけど、少しは融通を利かさないといけないとこもあると私は思うのよ」
 聡美は一人で納得している。晶は笑顔を崩さず話を聞く。しかし、晶の身を察したのか瞳が聡美の口に戸を立てる。
「聡美、ジャンヌの話もいいけどハンバーガー冷めてる」
「あ、ごめんごめん。つい熱くなっちゃって」
 聡美は慌てて手に持っているハンバーガーを食べ始める。
「ごめんなさいね。根っからの聡美はおしゃべりだから」
「そうそう、口から生まれてきたんじゃないかって小学校の担任によく言われてたのよ~」
 聡美はハンバーガーを食べつつもボケを忘れない。
「もう、聡美! 食べながら話さないの!」
 瞳はだだっこを叱るように言う。
「はいはい、分かってますよ。深山ママ」
 冗談を言い合う聡美と瞳をよそに、真はふとテレビを見るとニュース速報のテロップが流れている。
【水城町での一家殺害事件の容疑者が逮捕。容疑者は月笠町在住の無職の男性】
(どういうことだ? 黒田がすべてを自供したとでも言うのか?)
 テレビ画面に釘付けになっている真に気づいた晶も画面を見る。そして、真にウインクをしてから何事もないようにバナナシェイクを飲み始める。
(あのウインク。容疑者と言っているだけで、真犯人とは言ってはいない、ってことか)
 真は一人納得しながら流れるテロップをじっと眺めていた。


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