ここからはじまる恋

「オレから逃げられると、思ったの?」

背後から、空の甘い声が聞こえた。ビクッとして、扉の開かないエレベーターの前で足を止めた。

静かな廊下にコツンコツンと、空の靴の音が響いて、ピタリと止まった。すぐ後ろに気配を感じた。

「心配しなくても、送ってあげるよ? 事が済んだらね」

耳元に響く、甘い声。そっと肩に置かれた手を振り払って逃げるのは、無駄な抵抗だと思って、止めた。

私がいけなかったんだ。外見や偽りの優しさに騙された私が。

空は、私をBarに誘った時点で、下心があったんだ。強いお酒を飲ませて、酔った私に淫らな行為をしようと思っていたんだ。

二度目も、きっとそうだ。でも、うまくはいかなかった。

『空に、なにをされてもいいと言うのなら、勝手にすればいい』

その忠告を無視した私は、『なにをされても』文句は言えないはずだ。

それなのに……。目の前で微笑む空を、激しく拒否する自分がいた。

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