癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
実際、なんちゃって管理スタッフになって思うことは、
二面性の女性が多いこと。
相手を褒めつつも、影で毒を吐いている人がいる。

また、自分が出世したくて、周囲を陥れようとする男性もいた。
これでは女性不信がなんとかなるどころか、人間不信になりそうだ。

もちろん、そういう人ばかりでないこともわかっている。

例えば2Fのカフェ。シアトルアップルのまみちゃん。
笑顔を絶やさないのは商売柄当たり前だとして、
彼女の行動に温かさを感じる。
常連の俺に対する接し方ではなく、
カフェにやってくる外国人とのやりとりを見ているとそう思う。
もともとアメリカ生まれのカフェのせいか、
ここならはずれがないと思って、外国人観光客がよく立ち寄る。
観光客に対しては、ここから近いおすすめスポットを紹介したり、
地図を見て悩んでいる人には積極的に声をかけたりしている。

そうそう、この間、4Fの井口内科クリニックのところに
用があって寄ったときに見かけたときは、
まみちゃんは通訳みたいなことをしていて、
受付の人とのやりとりを手伝っていた。

井口内科クリニックの院長・井口 聡(いぐち さとし)とは、
中学時代からの親友だ。
お互いに名前の読みが同じなので名字で呼んでいる。
もちろん、彼は俺の事情を知っている。
井口のところに立ち寄ったときは、俺は作業着ではなく、
スーツ姿だったため、田中さんとは呼ばす、
「松浦社長」と呼んでくれた。
たぶん、まみちゃんは俺に気づいていないだろう。

周囲は、いつわりの俺を「癒しの田中さん」と呼ぶが
俺にとって、まみちゃんが、
まみちゃんの笑顔が癒しになっているように思えた。

当初、親父にいわれるがままはじめたことだったが、
いろいろなものが見えてくると、さすが親父だと思わざるを得なかった。
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