癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
履歴書を見て、予想と外れていた。
文章の感じからすると俺と同じくらいの年齢の人だと思っていた。
俺より8歳若い。当然、翻訳の実績もあまりない感じだった。
努力家なのだろう。

そして、彼女の顔写真。
どこかで見たことがあるような人だ。
俺と面識があるのだろうか。
ますます、彼女に会ってみたいと思った。

「若いな。だったら、やはり翻訳ソフトの件は好都合じゃないか。」

「それは、そうですが…。社長の話術に期待しますよ。」

小林はそう言った。

そして、漸く、彼女と会えることになり、社長室に来てもらうことにした。

小林に促されて、彼女は入室してきた。

「失礼いたします。
私、今回、翻訳の件でお世話になった白石真美奈と申します。
よろしくお願いいたします。」

彼女は、黒髪をハーフアップにし、
リクルートスーツの親戚のようなスーツを着て、
メタルフレームの眼鏡をかけていた。
緊張ぎみで顔はこわばっていた。

どこかで見た顔には違いなかったが思い出せずにいた。
洗練された印象はなかったが、
仕事でここに来たという意識の高さを感じた。
これまで、俺に媚びを売るような女ばかりだったので、新鮮だった。
女性不信の俺であっても、
この人だったら、一緒に仕事していけそうな気がした。

俺と小林で彼女にとっての新たな仕事の話をしたが、
その場ではいい返事がもらえなかった。
もしかしたら、俺が彼女の訳に手を加え、
最終稿を作ったことが納得いかなかったのかもしれない。
馬鹿にされたように思ったのだろうか。
きっと俺の言い方もデリカシーに欠けていたのだろう。

半ばあきらめかけた面会の翌日、
彼女からいい返事がもらえたことは本当にうれしかった。
構想として持っていた新ソフトの開発が現実味を帯びてきた。
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