癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
片付けものをしながら、
お母様が悟さんのことを話はじめた。

「悟はね、ここ5年くらいほんとうに
どこか欠落した状態だったの。
親として何もしてやれなくて、歯がゆい時期が続いたわ。
まみちゃんに出会って、あの子は救われたと思うの。
表情も豊かになったし…。本当にありがとう。
これからも悟のことをよろしくね。」

「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。
翻訳の仕事がしたいという私を
応援してくれているのは悟さんなんです。」

「あなたのそういうひたむきなところが、
悟に何かを与えたんだと思うわ。」

「いえ、そんな。」

「まみちゃんのご両親は九州にいらっしゃるんですってね。
何か頼りたくても遠いでしょ。
私でお役に立てば、本当のお母さんだと思って、
遠慮なく、声をかけてね。」

「ありがとうございます。」

世田谷の田中家の人たちにご挨拶し、
再びビルにある悟さんのお部屋に戻ってきた。

「真美奈、今日は急にごめんな。」

「いえ、田中家の皆さんに認めてもらえてよかったです。」

「ところで、九州にいる真美奈のご両親に挨拶したいんだけど…」

「九州なので、飛行機とか準備もあるし、
もう少し先でいいですよ。」

「俺に考えがあるんだ。
学校にお勤めだと日曜日はお休みだよな。
来週の日曜日にお会いできるか聞いてみて。
それで大丈夫だったら、真美奈もバイトを調整して、
一緒にご挨拶に行こう。」

「わかりました。今日は遅いので明日連絡とってみます。」

「そうして。今日は疲れただろう。早くお休み。」

「えっ、どこで寝ればいいですか?」

「そんなの決まっているだろう。俺の寝室。俺の隣。」

「…」

「大丈夫、襲わないよ。抱き枕にするかもしれないけど。」

そうからかわれて、52Fでの2度目の夜が過ぎていった。
< 82 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop