秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 ああ、そうか、とようやく納得した。

突然の外食、不自然な飲酒……この話をしたかったのか。

「ふは、母さんわかりやすなぁ」

「ええっ!?」

 もうアルコールのせいか照れてるせいかわからないけれど、顔を真っ赤にして困っている母がおかしくてたまらない。

きっと誰かから頼まれたんだろう、「大学生の息子さんに家庭教師やってもらえないか」って。

「そ、そんなに顔に出てるかなぁ」

 と焦る母が頼むくらいだからよほどのことなのだろう。

「いいよ、やっても。僕ができるかわからないけど……」

「そ、それは大丈夫!……それに、あおぞら園の園長先生にこの前会ってね、匠が園で勉強教えてたっていうのも聞いて、なんだか嬉しくなっちゃってね……」

 やけに断言したけれど、そんな援護するような事件が起きていたのかと思うと驚きだ。

「じゃ、じゃあ先方に連絡取っておくわね!えっと、匠はいつなら平気?一回ご挨拶したほうがいいと思うし」

「今週は日曜なら大丈夫かな。来週は講義の時間次第だけど……」

 酔っているのだろうか、おぼつかない手元で携帯をポチポチ弄り始めた母。

 母からの紹介ということは、職場関係の人だろうか。
せっかく母からの頼みごとなのだから、せめてがんばって親孝行の一つでもできればいい、なんて思っていた。


 顔合わせは最短として、僕のあげた候補の日曜日になった。

母に連れて行かれたのは、やけに高い柵に囲まれた白い壁の大豪邸。
正直、想像以上で腰は引けていた。スーツとまではいかないけれど、シンプルにジャケットを羽織るスタイルにしておいてよかったと心底思った。

「か、母さん、どういうこと……?」

 自分でもわかるほど顔はひきつっていたと思う。

「ご、ごめんね……わ、わたしもあまりのことに驚いてるの……」

 母の青ざめた表情に絶望しか感じない。

 何が親孝行だ、こんなのけなされて終わりだろう!!

己の軽い決意へどっぷり後悔に襲われていた時、門の近くのまだ押してもいないインターホンから声が聞こえた。


「東さまですね、お入りください」

 見られてる……!!

母と肩をどんより落として、まあけちょんけちょんに貶される覚悟をして門をくぐる。

 広い庭を通り抜けて扉の前に立つと、向こうから自然と開いた入口から中年の男性が現れた。
年齢は母と同じくらいか少し上か、すこし浅黒くいけれどにっこりほほ笑んだ表情はとても柔らかな印象だった。

ブランド物のポロシャツをきて、休日のお父さんっていうかんじだけれども、そこに高級感が足されたというかんじだろうか。

< 18 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop