秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 家庭教師を始めて一年と二か月が経ち、僕も遥姫も進級して夏の太陽が照りつけ始めたころだった。

入学後の2回目の夏休みが開始したばかりのとある日のこと。

 僕が見ている分には、若干口数は少ないものの問題があるようには見えず日々過ごしている遥姫。
それは、時折見せる愛くるしい笑顔に、僕は戸惑いを隠せないほどに。

義之さんが不安がるほどなにかが遥姫に起きているようには見えなかった。

「遥姫は学校楽しい?」

 僕の問いに遥姫は一瞬驚いた後、少し間が開いて俯いてしまったので、僕はぽんとその頭を撫でた。

「遥姫はいい子だね、先生の話ちゃんと聞いてるからこんなに勉強できるんだもんな」

 彼女の心の中でセーブをかけてしまうものは何だろうか。もしかしたら、僕には一生理解できないものかもしれないけれど、せめて寄り添える自分でありたい。

「おにいちゃんは、学校たのしい?」

 遥姫からの不安そうな質問に、僕は向き直って考えてみた。

「そうだなぁ、今の学校は勉強するためにいってるけど、もちろん一緒に同じことを勉強してがんばろうって励ましてくれる友達もできたから……楽しいかな」

「ともだち?」

「そう、学校はさ何も勉強だけじゃないんだよ。友達ってさ、自分の気持ちを伝えてすこしでも元気になったりがんばろうって思えたりするんだよね。
だからその分、相手のことも一緒に考えて元気をあげたい、って思ったりしてさ」

 僕も多い方ではないけど、と付け加える。

「あおぞら園でもさ、いろんな子がいたじゃん。……ほら、トラとか!」

 あの子だけは遥姫を気にしていて、「お嫁さんにするんだ!」って息巻いていたっけ。

「トラは……」

 照れたように困っている遥姫。これまた珍しい表情だ。

「別にさ、無理に友達なんて作らなくてもいいけど、一人でもいるとがんばろうって思えるってことだよ」

 ポンポンと軽くたたいて、遥姫の学校生活を想像してみる。

こんなに心を開いてくれているのは僕だけなのだろうか。とすれば、園のような態度を学校でもしているとなれば、そりゃ義之さんも心配になるかな。

「おにいちゃんと遥姫は……トモダチ?」
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