秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
「君には君の人生がある、だからこれは仕方のないことであの子が乗り越えるべきことだったんだ。気にしないでくれ」

 諭してくれたけど、当然納得はできなかった。

遥姫の生い立ちは寂しい道をたどってきたのかもしれない。
けれど、きっと本当は周りにも温かく彼女を見守っていた人がいたはず。
僕は、それに気づいてほしいとも思った。

あおぞら園の園長先生だって、トラだって、もちろん義之さんだって……僕だって。

 遥姫が好きでたまらない。

「僕、やっぱり行きますね」

 義之さんに伝えると、一瞬驚いてうなずいてくれた。

 思い出を一つずつ手繰り寄せるように考えてみた。
僕が遥姫を思い出すとき、どこにいるだろうか?あおぞら園と遥姫の部屋が多い。あとは……僕の家?でもそんなわけはない。

と思った瞬間だった。

「レストラン……?」

 最初で最後の食事会になってしまったけれど、終始とびきりの笑顔が絶えなかったあの日、僕は何気ないプレゼントを渡した。

感動で目を輝かせて、紐をくくりつけてリボンに見立ててやったボールペン。

僕に手紙を書くと、嬉しそうに笑っていた。

 僕は駅に向かって走り出した。

あのレストランは有名ホテルの上層部にあった。しかしホテルの入り口にはドアマンがいたはずだ。彼女ひとりで中に入れいるとは思えない。

 電車に乗り二駅、プラットホームを駆け抜け、ホテル方面へひたすら走る。
大きな道路を挟んだ向かい側に煌びやかにそびえたつ目的地。

しかし、やはりホテルの扉にはドアマンが立ちはだかり、あれを小学生が堂々と通り抜けるにはとても不自然だ。

息を切らしながら周囲を見渡す。

いくら繁華街の近くとはいえ、飲食店やコンビニでもない限りそろそろ店じまいの時間だ。

そうなれば明かりも減り、さらに探し出すのは困難になる。

どうにかして遥姫を見つけ出そうと横断歩道を渡ろうとしたときだった。視界の端にふと捉えたのは書籍も取り扱う系列店もある文房具屋。

店のそばに設置された植木の隅にたたずむ子供。

 僕が最後に見た姿より背は伸びていて、髪も肩よりも長くなっていた。けれども、淡い色の髪色を揺らし、あふれ出る雰囲気は昔と何ら変わりはなかった。

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