彼女は心に愛を飼っているらしい


「どうして隠してたの?」

静かに問いかけられる質問に答えることは出来なかった。

「…………」


すると彼女は、笑顔を浮かべて言う。


「やっと分かった、キミのこと」


透明なガラス玉をピカピカ光らせるような瞳で僕を見る彼女は、途中まで描いた絵を海だと理解していた。


「あの青と同じ。きっと広い世界を見たいんだ」


瞬きを数回、眉をひそめる。
彼女の言った言葉の意味は分からなくても話はどんどん先に進んでく。


「やっぱり海に来て良かった。嬉しいな、キミの本当の気持ちが知れて」


何が分かったのか、については彼女は詳しく言わなかった。だけど自分の中で何かを納得したようにうん、うんと頷いた。


そして彼女は僕の手をすくい上げるように持つと言う。


「一緒に夢を掴みに行こう」


ーーと。



「何を、……」


言ってるんだ、という言葉は声にする前に大きな波の音によってかきけされてしまった。


ざぶんと波打ってまた静かに戻っていく。


ああ、奪われた。


僕はそんな様子を見つめながらただそれだけを思っていた。


もう一度、何かを言うことはしなかった。ただじっと繰り返しこちらにやって来ては何かを拾って帰っていく波を見つめて、高揚した心が落ちつくのを待っていた。

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