彼女は心に愛を飼っているらしい
心臓がどきり、と音を立てた。
「うん……まぁ」
極力余計なことは言わないように僕は最低限の言葉で返すと母親は不思議そうに聞いてくる。
「今日は何を食べたの?」
「ちょっと、気晴らしに外で寿司を……」
「1人で?」
「そうだよ」
決まり悪く目を逸らしてしまい、焦ったけれど母親は特に違和感を感じなかったようで、ふふっと笑みを零しながら言った。
「どうだった?ちょっと贅沢なご飯は」
「たまには……こういうのもいいなって思ったよ」
「珍しいわね、はぐむがそんな事言うなんて。
お寿司が好きなら今度お父さんと一緒に行こうか」
僕は無駄に何か言うことなく、こくんとだけ頷いた。
僕の部屋から出て行った母親のご機嫌な鼻歌が聞こえてくると、ひとまず胸を撫で下ろす。
仕舞ったはずの絵を再び取り出したことを知ったらどうなるだろう。
今度こそ、全てを捨てられてしまうかもしれない。
僕は絵の具が入っている引き出しをじっと見つめた。
自分の気持ちが変わったとして、周りの気持ちが変わることはない。
だったらやっぱり意味がない。
何をしても、どんなことを思っても最終的には同じ答えにたどり着いてしまうのだ。
僕はまたその引き出しを開けることはしなかったーー。