幾久しく、君を想って。
でも、妻はそれをキッパリと否定した。そんな事をしても自分には何のメリットも無いと言った」


メリットという言葉が冷たそうに聞こえる。
損や徳を考えながら結婚生活は送るものだろうか。


「……けれど俺は、それすらも信じられなくなっていた…」


愛しているなら全てを信じてやれるなんてことはない。それはきちんと愛を知らない人達が言う台詞だと、彼は嘆くように囁いた。


「俺の猜疑心から夫婦喧嘩の数が増えて、家庭内がギスギスするようになりました。これで子供でもいたらまだ我慢をしていたのかもしれないけど、起業したい彼女は子供を作ることも拒否していたからいない。
俺達を繋いでいるのは何だろうかと、もっとよく話し合えば良かったのでしょうけど…」


すれ違いだすと人は次第に口が重くなってしまう。

顔を合わせると喧嘩になり、別れた奥さんはセミナー仲間の家に逃げるようになった。


「そうなるともう、俺だけが悪いとは思えなくなってきて、お互いのアラばかりを探す日々が続きました」


二人で家に居ても無言。
別々の部屋で過ごす時間が増え、亀裂や溝が深まった…と松永さんは語った。


「離婚届を用意してきたのは向こうでした。多分もう俺から離れたいと思う気持ちがあるんだろうなと理解した。
俺も彼女の我が儘に振り回されるのが嫌だったし、スッパリと別れて仕切り直して生きたいと思った」


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