幾久しく、君を想って。
お互いに名前を相手の目の前で書き合い判をついた。
並んだ二人分の署名を見ても、何の名残りも無かったそうだ。


「ある意味、ホッとした…と言うか、これで解放されると思いました」


彼の気持ちは痛いほど分かる。
届けさえ書いて出せば、人生はやり直せると私も思った。


「俺達は二人で離婚届を出しに行きました。きちんとケジメを付けたいと、妻に言われたからです」


「付けられたんですか?」


そんなことで?と思う。
たった一人で市役所へ向かった私とは違う。
二人で出せば、お互いに満足のいく結果になったのだろうか。


「付けられた…と言うことにしました。彼女はともかく、その時の俺の内心ではそうでした」


答えた松永さんの目は、複雑そうに彷徨った。
自分を蔑ろにしてまで届を用意したのは、もしかしたら奥さんの方だったのではないかと思えた。


「この間、映画を観た後で宮野さんが言いましたよね。いきなり離婚届を突き付けられた方はどうしていいか分からなかったと思うって。
あの時はそんなこと無かったと思いました。
でも、本当にそうだったかな…と、この最近よく思い返しています。
……あの時の俺はまともな判断が下せる状況にあったのだろうか。もっと腹を割って、相手とよく話すべき事も多かったんじゃないのかって」


今更ですけど…と微笑み、長話になってすみません…と謝った。


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