ビルの恋
「違うよ」
伊坂君が笑う。

「出張から戻ってきたところ。隣、いい?」

頷くと、伊坂君はベンチに腰を下ろした。

伊坂君は、顧客企業の米国支社で、一か月ほぼ缶詰になって働いてきたとのことだった。

「さすがに疲れた。それ、美味しそうだね」

私のおにぎりを見て言う。

「食べる?」

伊坂君が頷いたので、どちらがいいか聞き、筍の木の芽焼き入りを渡す。

「ラップで包んで握ったから」

「え?」

「他人が素手で握ったもの食べられないって言う人、結構いるでしょ」

「ああ。そういわれればそうだね、日本独特だよね、おにぎり」

言いながら伊坂君はおにぎりを頬張った。

「おいしい」

あっという間に食べ終わってしまった。

「もう一つ食べる?」

褒められて、つい気を良くした。

「いいの?なんか悪いな・・・そうだ」

そう言うと伊坂君は、キャリーケースを開けた。

「じゃあ、代わりにこれをどうぞ」

袋を一つ取り出し、くれる。

ポテトチップスだ。

「ビネガー味。俺好きなんだ」


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