ビルの恋
廊下を斎藤さんについて歩く。

「あの、用事って」

「特にないわよ、困っている様子だったから」

「ありがとうございます」

「うまくいくといいわね」

「え?」

「桜さん、声が大きいから聞こえてしまって。
一緒にお花見してた人でしょ?」

斎藤さんまで。

「見てたんですか」

「夏堀さんが桜見ようって誘ってくれた時、10分後くらいに降りられたの。
そうしたら、いい雰囲気だったから。邪魔しちゃ悪いと思って」

斎藤さんが淡々と言う。

「ほんとにいい雰囲気でした?」

思い切って聞いてみる。

「不釣り合いじゃありませんか?」

斎藤さんは驚いた様子で、一瞬言葉に詰まったが、すぐに、正直なコメントをくれた。

「そうね、釣り合っているかと言われれば、微妙」

「ですよね」

やっぱり。

「何か、彼が夏堀さんに興味持つ理由があるんじゃない? 
心当たりは?」

「それが、小学校の同級生だったこと以外、思い当たらないんです。
私、地味なので、外見というのはないと思うんですよ・・・」

「確かにそうね」

斎藤さんが笑う。

「でも夏堀さん、背が高くてスタイルいいし、自分で思っているほど地味じゃないわよ」

そうだろうか。

お世辞だとしても、斎藤さんに言ってもらえると嬉しい。

私は斎藤さんについて、デスクに戻った。

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