ビルの恋
PCで入力作業をしていると、隣のチームの秘書・河野桜がやってきた。

ゆるくカールした髪に色白な肌、目がぱっちり大きくて口は小さく、フランス人形みたいな顔立ち。

スタイルもいい。

でも残念ことに、仕事はできない。

「コピー機のトナーが切れちゃって。
申し訳ないんだけど、入れてくれない?私、機械って苦手で」

機械というほどではないけど。

「わかりました、すぐ行きます」

自分でやれよと思いつつ、つい親切にしてしまう。

「はい、できましたよ」

交換を終えて立ち上がると、河野桜が話しかけてきた。

「夏堀さん、お昼、吉野にいましたよね。デート?」

河野桜もいたのか、あそこに。

「違います、デートじゃないです」

トナーで汚れた手を、ティッシュでふきながら応える。

「そう?彼、とても素敵な人だったけど」

「昔からの知り合いです」

「ほんと?だったら紹介して?
実は、彼とエレベーターで一緒になったことあるの。弁護士だよね?」

河野桜は急に媚びるような声になった。

「さあ」

やっぱり伊坂君はモテるんだな。

河野桜が目を付けていたとは。

どうやり過ごそうか考えていると、

「夏堀さん?」

と声をかけられた。

振り向くと、斎藤さんだ。

私を探していたようだ。

「お話し中ごめんなさい、ちょっと急ぎの件があって。来てくれる?」

助かった。

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